大規模改修工事、計画的な修繕工事は実施していたが…
1.震災の経験から耐震改修工事に踏み出す
(1)建物の概要と経過
このマンションは大阪北部ニュータウン内に立地する片廊下型、鉄筋コンクリートラーメン構造の建物で1974(昭和49)年に建てられ、40年ほど経っている。7階と8階の棟が一文字につながっていて、住戸数91戸、1階にピロティ形式の駐車場と集会室、電気機械室などがある。
このマンションではこれまでに3回の大規模改修工事をはじめ、設備全般について計画的に修繕工事が実施されてきている。2011年に実施された大規模改修工事では建物の構造、塗装、防水、電気設備の修繕に加え、玄関扉の取替え、玄関ホール周りのリニューアル、バリアフリー工事など住環境の改善工事の取組みがされて、永く快適に住まうためのマンションづくりが進められている。
(2)阪神大震災と東日本大震災
このマンションでは、阪神大震災の際に廊下壁に軽微なきれつが入る程度であるが被害を経験しており、翌年には大規模改修工事を行い構造の補修がされている。
当時、震災のテレビ報道でピロティ部分の柱が大きく破壊されたマンションの姿を見て「大きな地震が起きたとき、自分たちのマンションは大丈夫だろうか」という不安の声が聞こえるようになる。それから月日が流れ、35年目に3回目の大規模改修工事の準備をスタートさせることになり、耐震診断などの検討もなされたが、先々、相当高額な費用がかかる可能性があり、建物の各部の劣化が進行していて早期に大規模改修工事を実施する必要があることを併せて考えた場合、自己資金だけではまかなえなくなることや、阪神大震災の際に感じた不安も薄れつつあったことから、耐震の検討はこの時点では一旦保留となった。
以後、大規模改修工事の準備を順調に進めていたが、工事計画が承認され、施工者が決定されようとする矢先の2011年3月11日、東日本大震災が起きた。大規模改修工事は予定どおりその年に実施されたが、東日本大震災によって阪神大震災の恐ろしさが再び呼び起こされ、マンション住民は近い将来に起こる可能性のある南海沖地震に備える必要性を感じ、耐震改修工事について具体的に検討していく必要があるとの声が高まっていくことになった。
耐震診断と耐震改修設計に着手することを決定
(3)耐震委員会の立ち上げ
管理組合内で耐震改修工事の具体的な準備の役割を果たしていくことになるのは、第3回大規模改修工事を進めた理事長と修繕委員長、修繕委員らである。大規模改修工事が完成した翌2012年の春には管理組合内に「耐震委員会」を結成し、工事の助言やサポートを得るために専門家に耐震改修設計の依頼をした。
当時、管理組合の考えは、自己資金に加えて金融機関からの借入限度額を工事予算として、その範囲で建物1階駐車場などの優先順位の高い部分の耐震改修を行うというものであった。これに対して、専門家は管理組合に次のような助言を行った。
①建物1階駐車場部分だけではなくほかにも耐震改修が必要な範囲があることが予測され、耐震診断を実施して判断する必要があること。
②管理組合が考えている工事予算は、耐震改修工事が必要な範囲や方法が確定しない限り、十分かどうかは判断できないこと。
管理組合はこれらの点を確認し、臨時総会で、耐震診断を行って耐震改修設計に着手することを決めた。