たとえ理不尽なペナルティもマネーがなければ受け入れるしかない…アメリカ人が「国外資産」を持つなら「必ず提出すべき書類」

たとえ理不尽なペナルティもマネーがなければ受け入れるしかない…アメリカ人が「国外資産」を持つなら「必ず提出すべき書類」
(画像はイメージです/PIXTA)

アメリカの税に関する裁判の難しさは日本の比ではありません。通常の確定申告に加え、複数の情報開示書類(Information Return)の提出が義務付けられ、怠れば高額な罰金、時には刑事罰にまで発展することもあります。本稿では、アメリカにおける海外資産申告制度の全容と、救済措置の仕組み、そして過去に実際に起きた判例をもとに、制度の厳しさと申告漏れのリスクについて詳しく解説します。

申告書忘れのペナルティ…裁判による逆転も容易ではない

このような申告書をアメリカで忘れてしまった場合、アメリカでどのようなペナルティが待っているのでしょうか。2つほど事例を紹介します。

 

10年以上にわたってFBARの提出義務を怠る

1999年に父親からスイスの銀行口座を譲り受けたMonica Tothさん(当時82歳)は、10年以上にわたってFBARの提出義務を怠ってしまいました。

 

その後、FBARを提出し納税を済ませたものの、IRSは故意に提出を怠ったとして、220万ドルの制裁金を課しました。Tothさんはこれを修正憲法8条(過剰な罰金の禁止)に違反しているとして控訴しました。しかし、最高裁判所はIRSの主張(故意に行われたものであり、民事上の制裁金である)を支持し、220万ドルの制裁金が確定しました。

 

スイスの口座にある資産を未申告

もう1人はルーマニア生まれのAlexandru Bittner氏。1980年代にアメリカに移住、市民権を取得しましたが、1990年代にルーマニアに戻り事業で成功を収めました。

 

彼が保有していた海外資産は約7,000万ドルで、スイスを中心に272の口座を所有していました。2011年にアメリカに戻った際、過去のFBAR未提出に気づき、1996年~2011年分を遡って提出しました。しかしIRSは、時効が成立していない2007年~2011年分の5年分について、272口座ごとに制裁金を課し、合計272万ドルの罰金としました。

 

Bittner氏とIRSの間で「申告漏れが故意ではなかった点」は一致していましたが、Bittner氏は制裁は年度ごとに課されるべき(計5万ドル)と主張。最高裁まで争った結果、Bittner氏の主張が5対4の僅差で認められました。

お金がなければ税務裁判を起こすこともできないアメリカ

このケースで重要なのは、アメリカでは訴訟を起こすにも資金が必要であるという現実です。

 

制裁金や延滞税が5万ドル以下であれば、US Tax Court(米国租税裁判所)にて事前納付なしで訴訟が可能です。しかし、5万ドルを超える場合は、US District Court(米国連邦裁判所)またはUS Court of Federal Claims(米国請求裁判所)で争うこととなり、まず制裁金などを全額納付した上でなければ訴訟を起こせません。

 

勝訴したBittner氏はそのための資金を持つ富裕層でした。Tothさんも税制改革団体の支援があったからこそ裁判を起こせましたが、一般市民にとっては極めて困難なのが現実です。

 

アメリカの税制度では、提出ミスひとつで巨額の罰金が科され、さらにそれを争うためにも多額の費用がかかる可能性があります。海外資産を持つアメリカ人や居住者にとって、専門家のサポートを受けて適切に申告することが不可欠であり、軽視すれば深刻な法的リスクを招く可能性があるのです。

 

税理士法人奥村会計事務所 代表

奥村眞吾

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