本当にアメリカ人は“あっさり味の麺類”を食べないのか?
経営とは、判断の連続ともいえます。要するに右に行くのか、左に行くのか、前に進むのか、いったん立ち止まるのか、時によっては退くのも経営判断です。その際に重要なのが、直面している状況や事実をどうとらえるのか、すなわち現状を把握する能力です。最終的には主観で判断するにしても、事前に取っていたデータに基づいて考えたうえで決断します。
アメリカ進出のとき「うす味のラーメンはアメリカでは売れない」と言われましたが、その人たちがなんらかのデータに基づいて話していたのかといえば、決してそうではありません。ならばやるべきことは自分たちで取れる限りのデータを収集することです。本当にあっさり味の麺類が売れていないのかどうかを、自分で調べて回りました。
具体的な指標としたのが、ベトナム料理でフォーを出している店です。西海岸ロサンゼルス近辺に限定して検索してみると、ごく限られたエリア内だけでも何十店舗もありました。
次は現地調査です。それだけたくさん店があるのだから、フォーはそれなりに人気を集めているのではないかとまずは仮説を立て、その仮説を自分の目で確かめに行きました。
さまざまなマーケティングリサーチの中でも飲食店リサーチの良いところは、自分で店に入って味を確かめられるだけでなく、価格をチェックできるし、時間単位の客数も大まかですがカウントできる点にあります。気になる店があれば、何回か通ってみれば客層はもとより、そのお客様たちが店でどのように過ごしているのかも分かります。単に食事だけしてすぐ帰るのか、あるいは食事を誰かと楽しむ場として来店しているのかなど、店の雰囲気もつかめます。
新しいビジネスを始めるのだから、その環境について調べるのは、ごく当たり前の準備です。ところが日本から飲食店が海外に出ていこうとする場合、この作業を省くケースが多いのです。
そもそもアメリカに出ていこうとしません。なぜならアメリカでは出店そのものが容易ではないことが分かっているからです。法的な許認可などの問題があり、アメリカでの出店はかなり難しく、それに比べると難易度の低いアジアへ出ていく傾向にあります。
判断の背景はデータではなく、この国なら店を出しやすそうという感覚や、日本から近いからという距離感だけです。その結果、失敗するケースも多く出てきます。
それでもアメリカやヨーロッパに出店したいと考えたときには、現地の事情を知っている人と組めば間違いないだろうと考え、現地のパートナーを探します。そしてニューヨークならタイムズ・スクエアを狙ったり、西海岸ならいきなりサンタモニカのビーチ沿いに出店しようとしたりします。
そのようなやり方がうまくいくとは思えません。おそらくみんな、日本で最初に店を出したときのことを忘れてしまっているのでしょう。たいてい自分で出向き、まわりにどんなお店があるのか、そもそもどんな人たちが暮らしている地域なのか、しっかり見に行っていたはずです。
これはマーケティングリサーチなどというほど大層なものではなく、ごく当たり前の作業だったはずです。なぜ、同じ作業を海外出店のときにやろうとしないのか。私としては不思議でなりません。
