住居費と食費の安さに惹かれ、定年後に地方移住した夫婦
「先生、私たち、もう一度都会に戻ろうと思うんです」
70歳の佐藤さん(仮名)は、妻を連れて、開口一番筆者にこう訴えました。
2人は5年前、都内のマンションを売却し、地方の小さな町へ移住しました。当時、マンション売却益と退職金を合わせて約3,500万円の資産があり、そのうち900万円で築50年の古民家を購入。さらにリフォームに400万円を投じました。残る2,200万円は、老後の生活資金として温存する計画でした。
収入は、夫の厚生年金が月約15万円、妻の国民年金が月約6万8,000円で、合わせて月約21万8,000円です。
「都内に住んでいたころは、この収入ではとうてい生活できなくて。地方なら家賃もかからないし、余裕で暮らせると思っていたんです」
そう振り返る夫。妻も続けます。
「家庭菜園で野菜も採れるし、近所の方からは魚もいただけるって聞いて。食費もほとんどかからないと思っていたんです」
ところが、移住して2年目に入ったあたりから、夫婦の家計は少しずつ軋みはじめます。夫が軽い脳梗塞を発症し、月2回の通院が必要になったことをきっかけに、想定外の支出が増えていったのです。
「気づいたら、2,200万円あった預金が1,400万円にまで減っていました」
5年間で800万円の取り崩し。単純計算で年160万円、つまり毎月約13万円の赤字が生じていたことになります。地方移住で生活コストが下がるはずが、月21万8,000円の年金収入では、生活費と医療費を賄うことができなかったことを意味します。

