(※写真はイメージです/PIXTA)

本連載は、三井住友DSアセットマネジメント株式会社が提供する「市川レポート」を転載したものです。

 

●トランプ氏の発言で米景気後退懸念が強まり、米株安、米長期金利低下、ドル安・円高が進行。

●株価急落時の確認点は3つ、金融システムへの影響、流動性への影響、他国・他地域への影響。

●株安要因は心理的なもので懸念が和らげば株価反発も、冷静に投資を考える余地は十分あろう。

トランプ氏の発言で米景気後退懸念が強まり、米株安、米長期金利低下、ドル安・円高が進行

3月10日の米国株式市場では、主要株価指数が急落する展開となりました。ダウ工業株30種平均は前週末比の下げ幅が一時1,100ドルを超え、結局、890ドル(2.1%)安の41,912ドルで取引を終えました。このほか、S&P500種株価指数は前週末比2.7%安、ハイテク株比率の高いナスダック総合株価指数は同4.0%安、主要な半導体関連銘柄で構成するフィラデルフィア半導体株指数(SOX)は同4.8%安となっています。

 

この日、市場で材料視されたのはトランプ米大統領の発言でした。トランプ氏は、3月9日放送の米FOXニュースで、年内の景気後退入りの可能性を問われ、「我々は非常に大きなことをやっているため『移行期間』が存在する」と述べました。市場では、トランプ氏が景気後退の可能性を否定しなかったとの受け止めが広がり、米株安、米長期金利低下、ドル安・円高が進行しました。

株価急落時の確認点は3つ、金融システムへの影響、流動性への影響、他国・他地域への影響

昨日の米金融市場で、株価急落などリスクオフ(回避)の動きが強まった背景には、「米景気後退懸念の高まり」があると思われます。株価が大きく下落した場合、その要因とされる事項について確認すべきは、(1)金融システムへの影響、(2)流動性への影響、(3)他国・他地域への影響、この3点です(図表1)。そこで、今回のケースについて、この3点に影響するか否かを考えてみます。

 

[図表1]株価下落要因のチェックポイント

 

過去、金融市場を揺るがした、いわゆる「リーマン・ショック」や「欧州債務危機」は、(1)から(3)すべてに大きく影響しました。一方、今回、株安要因とされるのは、「米景気後退懸念の高まり」という心理的なものであるため、(1)から(3)に深刻な影響を与えるものではなく、過度な警戒は不要と判断されます。一般に、市場は悪いシナリオを早々に織り込んで大きく動く傾向があり、足元はそれが顕著にあらわれている状況と考えます。

株安要因は心理的なもので懸念が和らげば株価反発も、冷静に投資を考える余地は十分あろう

そのため、「米景気後退懸念の高まり」が和らげば、株価が反転上昇し、リスクオフの動きは次第に後退していくことは予想されますが、懸念が和らぐまでの間は、やや不安定な相場が続く恐れもあります。米景気後退に対する懸念が和らぐには、少なくともトランプ関税の全体像がもう少し明確となり、関税引き上げが中国や一部の品目に限定されるなどの方向性がみえてくることが必要と考えます。

 

なお、S&P500指数の構成銘柄のうち、約3割が3月10日に前週末比で下落しておらず、全面安という状況ではありません。また、米ハイテク企業を含む情報技術や通信サービスの市場の利益予想は依然として良好です(図表2)。大手の米ハイテク企業については、人工知能(AI)関連の大型投資への不安もみられますが、株価水準が全体的に大きく下がった現在、市場の利益予想も踏まえると、改めて冷静に投資を考える余地は十分あると思われます。

 

[図表2]業種別の予想1株あたり利益(EPS)伸び率

 

※当レポートの閲覧にあたっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『足元の「米株急落」「米長期金利低下」「ドル安・円高の進行」について【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフマーケットストラテジスト】』)。

 

市川 雅浩

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

チーフマーケットストラテジスト

 

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