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共有者が増え、持分が細分化されていく「共有不動産の構図」
信彦さん(仮名・56歳)は、4年前に母から地方にある土地(約180坪)の共有持分を相続しました。その土地はロードサイドにある更地で、現在は資材置き場として賃貸していますが、雑草も生え放題で、定期的な草刈り費用がかかりそうです。
土地の名義は、叔父(79歳)・従兄弟(56歳)・従姉妹(52歳)・信彦さんの4人です。この土地はもともと母方の祖父のもので、当初は叔父・叔母・母の3人が共同相続していましたが、4年前に母と叔母が続けて亡くなったため、現在の共有関係に至りました。
共有者のうち、地元に住んでいるのは叔父だけです。信彦さんは、ほかの共有者である従兄弟たちとは幼少期に会った記憶しかなく、当然付き合いもありません。叔父には娘が3人いますが、みんな遠くの他県に嫁ぎました。将来叔父が亡くなり、3人の娘たちが叔父の共有持分を共同相続すると、疎遠な共有者がさらに増えることになります。そうすれば、土地の管理処分を巡る共有者間協議は、今後ますます煩雑化してしまいます。
信彦さんは「不動産の共有は煩わしい」と理解してはいたものの、母の相続を放棄するわけにもいかず、すべてわかったうえで共有持分を相続しました。とはいえ、今後のことを考えると、こんな共有持分を自分の子どもたちに引き継ぎたくはありません。信彦さんは、叔父が元気なうちに共有者間で話し合って、母の7回忌までには、共有関係の解消に目処を立てたいと考えています。
不動産の共有名義はなぜ発生するのか?
不動産の共有関係は「避けたい」と思っていても、さまざまな要因で共有名義は発生します。具体的には、次のような発生要因があります。
◆1.相続手続きで「とりあえず共有」
法律上、相続が発生すると、遺産はいったん、自動的に「法定相続人全員の共有(遺産共有)」となります。その後、遺産分割協議で分割案がまとまらず、公平に「とりあえず共有」として分割を先送りするケースです。相続を原因とする共有発生が最も多くなります。
◆2.遺留分侵害による遺留分減殺請求(旧民法)
令和元年6月30日以前(旧民法)は、「遺留分減殺請求」がされた場合は遺産の取得行為そのものが一部無効になる効果があったため、遺留分を侵害された人は、不動産の共有持分など遺産そのものの一部を取得できたことで、意に反して共有名義不動産が生じていました。
◆3.共有前提とした不動産取得
共働き夫婦が、ペアローンや収入合算で住宅ローンを組むことでより高い物件を購入したり、税制面での優遇を受けるための「夫婦によるマイホーム取得」や、親子が同居する際の「二世帯住宅建設」では、贈与税対策で共有名義を前提に不動産を取得したりしていました。
◆4.共有持分の相続
本事例のように、相続時点ですでに共有状態になっており、相続したのが「共有持分だった」という場合です。相続放棄する以外に不動産共有を避けられない状況下で、しぶしぶ共有関係を承継したか、あまり深く考えずに相続するようなケースがあります。
【解決策】「すでに共有状態」を解消・離脱する5つの方法
すでに共有状態になってしまった共有名義不動産について、共有後からできる共有解消・離脱するための5つの方法を解説します。
◆1.共同売却(持分譲渡権限付与制度)
共有者全員が売却に合意し、共同売却することで共有関係は解消されます。住宅ニーズのある地域であれば競争入札(オークション)による売却も可能ですが、それ以外なら一般売却(相対取引)になります。
売却に際しては、「現況更地」で売るか、ロードサイド店舗を誘致して「収益不動産」として売るかを検討します。郊外型のロードサイド店舗は、土地面積などで業態は棲み分けされています。例えば「コンビニ:300坪以上、ドラッグストア:400坪以上、テイクアウト型飲食店:100~150坪」などです。
また、共有者の一部が将来行方不明になった場合、「所在等不明共有者の持分譲渡権限付与制度(民法第262条の3)」の裁判を利用することで、行方不明共有者の共有持分を譲渡する権限が他の共有者に付与され、共同売却が可能になります。
◆2.共有持分の売買(持分取得制度)
共有者間で共有持分の売買をすることで、共有関係を解消できます。買う側は単独所有権を取得し、売る側は共有関係から離脱します。共有持分の処分は各共有者の自由なので、もし共有者間で売買条件が合わなければ、他の共有者以外の第三者(買取業者など)へ売却して共有離脱することも可能です。
また、共有持分を買い取りたくても一部の共有者が行方不明である場合、「所在等不明共有者の持分取得制度(民法第262条の2)」の裁判を利用することで、行方不明共有者の共有持分を他の共有者が取得でき、共有関係は解消されます。
◆3.共有持分の贈与、放棄
「共有状態を早く解消したい」「無償でも手放したい」というのであれば、共有者が他の共有者に共有持分を贈与することで、共有関係から離脱できます。
ただし、贈与は契約になるので、共有者が他の共有者に対して「無償で自分の共有持分を譲りたい」といっても、相手が応じなければ贈与契約は成立しません。贈与税や不動産取得税、登録免許税、贈与後の固定資産税の増加を理由に、他の共有者から「いらない」といわれる可能性もあります。
贈与が難しければ、共有者が一方的に共有持分を放棄して、共有関係から離脱することも可能です。放棄は単独でできるため、他の共有者の同意は不要であり、放棄した持分は、他の共有者に帰属します(民法第255条)。ただし、登記名義を変更しなければ、放棄した共有者は固定資産税の支払い義務を免れることはできないため、不動産の名義変更登記は、放棄した共有者と他の共有者との共同申請です。他の共有者が放棄した持分の引き受けを拒む場合は、放棄した共有者は登記引取請求訴訟を提起し、判決を得てから単独で登記手続きを進めることになります。
◆4.所有権の共同放棄
共有者全員が「不要な不動産なので手放したい」と合意できるなら、隣地所有者へ無償で譲渡することもできます。譲渡契約書を締結して、所有権移転登記費用を当方負担とすれば、引き取ってくれる可能性はあります。
また、不動産自体に魅力がなく、隣地所有者にも断られた場合は、不要な土地を国に引き取ってもらう「相続土地国庫帰属制度」の利用を考える必要があります。本制度の利用は、相続した不要な農地や山林のイメージがあるかもしれません。しかし、帰属承認件数で最も多いのは宅地で、全体の約40%を占めています。
本制度の利用には、共有者全員が帰属に合意する必要があります。加えて、本制度は申請受理まで辿り着ければ承認率90%以上(令和7年1月31日時点)ですが、本申請ができるまでに申請要件を満たすためのハードルがあり、承認後は負担金の支払義務があるなど一定の費用負担が生じます。
◆5.不動産の交換
共有者間で、共有持分と他の不動産を交換することで、共有関係を解消する方法です。物々交換が基本ですが、交換価格が等価にならない場合は、その差額を「交換差金」として現金清算することになります。ただし、交換する不動産がなかったり、共有持分の価格が低かったりする場合は交換が成立しないため、共有持分売買のほうが現実的です。
平田 康人
行政書士平田総合法務事務所/不動産法務総研 代表
宅地建物取引士
国土交通大臣認定 公認不動産コンサルティングマスター
