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「兄から共有持分を買取った土地」に自宅を建てるか悩んだが…
7年前、母の約80坪の月極駐車場を兄と共同相続した正樹さん(仮名・55歳)。駐車場の稼働率は5割以下で決してよいとはいえず、周囲には事業所や専門店も多い地域であることから、兄に「時間貸し駐車場へ転換してみては?」と相談したところ、「好きにしたらいいよ。いっそのこと、俺の共有持分を買い取ってくれないか?」と意外な返答が。兄がいうには、いくら兄弟でも共有関係が継続することにストレスがあり、将来、兄自身の相続で子ども(正樹さんの甥姪)に共有持分が移ることを考えると、共有関係は今のうちに解消しておきたいとのことでした。それから2ヵ月後、正樹さんは兄から共有持分(1/2)を買い取って単独所有とし、現在は、時間貸し駐車場として運営しています。
正樹さんは仕事の都合上、これまで全国を転々としていました。いわゆる転勤族です。正樹さんと妻は「いつかはマイホームを持ちたい」と思いながらも、賃貸住まいを続けてきました。兄からの共有持分の買取りに応じたのも、「老後はこの土地に小さな住宅でも建てて、妻とゆっくり暮らしても…」と考えたからです。一方で気がかりもありました。すでに実家を出て他県で一人暮らししている、長男と二男(どちらも20代社会人)のことです。
長男は、大学を出て大手企業に就職していますが、正樹さんと同じように転勤族。二男は、転勤はなさそうですが、二男本人が現在の居住地を気に入っているようで、将来もそこに住み続けたいと話しています。
正樹さんは、兄から買い取った土地に住宅を建てるべきかどうか考えました。
・この土地に家を建てても、将来子どものいずれかが住む可能性は低い。
・この土地に家を建てると、財産の大半は不動産となるため、兄弟2人で分けにくく、共同相続する可能性が高い。
・将来、正樹さん夫妻が施設に入ることになれば、入所資金を捻出するために、いずれ土地建物を売却することになる。その時点で正樹さんが認知症になっていないとも限らない。
正樹さんは、兄から打ち明けられた共有関係の煩わしさやストレスは理解できるし、子どもたちにも同じ経験をしてほしくはありません。妻と話し合った結果、この土地には住宅を建てず、いずれ売却し、売却したお金は夫婦のために使い、残れば子どもたちに相続させることにしました。近々、子どもたちに自らの老後計画を話す予定です。
「分けにくい資産」を「分けやすい資産」に組み換える
分けにくい資産は、生前に「分けやすい資産」に組み換えておくことができます。
資産の組み換えとは、現在所有している資産を別の資産に変えて保有し直すことをいいます。資産の組み換えをする目的には、①保有資産の収益性向上、②相続税対策、③納税資金・遺産分割対策などがあります。
例えば、①保有資産の収益性向上では、古くなった既存の収益アパートを新しく建て替えたり、新しい収益不動産に買い替えたりする場合です。②相続税対策では、現金を相続税評価が低い土地や建物に組み換えたり、「小規模住宅地の特例」を検討したりするような場合があります。③納税資金・遺産分割対策では、売却に時間がかかりそうな不動産や分けにくい不動産を売却し、現金に組み換えておくことで、納税資金や遺産分割の準備にもなり、相続人の負担が軽減されます。また、別の遺産分割対策として、1つの不動産を売却した資金で、複数の不動産に買い替えることもできます。
本事例の場合、仮に正樹さんが駐車場を売却した資金で区分所有建物を2つ購入して賃貸し、賃料収入を得ながらも自身の相続が発生したら、それぞれを長男と二男に相続させることも可能です。
不動産売却の主な方法、「一般売買」と「競争入札」
資産組み換えで不動産を売却するのであれば、売主の心情として「できるだけ高く、納得できる金額」で売りたいと思うのが通常です。ただし、不動産売却に際しては、「一般売買(相対取引)」と「競争入札(オークション取引)」があることに留意する必要があります。
一般売買(相対取引)とは、具体的な意思表示があった買手から順に相対で交渉し、合意すれば成約となるもので、ほとんどの不動産取引がこの形態です。一方、競争入札(オークション取引)とは、入札期日まで複数の買手から買い希望(入札書)を募り、入札があった複数の買い希望のなかから、売主が希望する売却条件に合致した入札者と交渉し、合意すれば成約となります。逆に、希望条件に満たない場合(すべての入札金額が売却希望価格に届いていないなど)は売却を取り止めとするものです。
一般売買と競争入札、それぞれのメリット・デメリット
一般売買(相対取引)と競争入札(オークション取引)にはそれぞれメリット・デメリットがあるため、よく理解のうえ、適したほうを選択する必要があります。
それぞれのメリット・デメリットは、次のとおりです。
◆一般売却(相対取引)
<メリット>
・早く売却できる ※換金を急ぐ方には向いている
・全国すべての不動産業者で対応可能
・どんな不動産(規模、エリア、市場性など)でも対象となる
<デメリット>
・意思表示の早い順で成約するため、成約相手の金額が高いとは限らない
・買手から購入に際し、いろいろ条件を付加されることがある
・物件情報の囲い込みをする業者がいる
◆競争入札(オークション取引)
<メリット>
・売却時点において、一番高値で購入する買手を探すことができる
・市場競争原理で結果が決まるため、売却過程における透明性や納得性が高い
・入札要綱(入札ルール)で、あらかじめ売主有利な売却条件を設定できる
<デメリット>
・一般売買(相対取引)に比べて、成約まで時間がかかる
・競争入札(オークション取引)の対象不動産は限られている
※どんな不動産でも競争入札(オークション取引)で売却できるわけではない
・競争入札(オークション取引)実績のある業者は限られている
※すべての不動産業者が競争入札(オークション取引)を取り扱えるわけではない
【補足】
・競争入札(オークション取引)の対象不動産は、一般的に「地積50坪以上、間口8m以上、前面道路:幅員5m以上の公道、建蔽率60%以上、容積率200%以上」の土地(古家付きを含む)であり、入札対象者は不動産開発業者に限られます。
不動産会社の「囲い込み」に注意
競争入札(オークション取引)の対象不動産は条件が限られるため、それ以外の不動産は一般売買(相対取引)で売却することになります。その際、不動産会社による囲い込みには注意が必要です。
囲い込みとは、売主から売却依頼を受けた不動産会社が、他社に物件情報を出さず、自社のみで売買取引をしようとする行為で、売買成立時の仲介手数料を売主と買主の両方から自社が受け取ることを目的としています。つまり、売主のために不動産を高く売ることよりも、不動産会社自らの売上である仲介手数料金額の最大化を優先しているということです。
囲い込みをされてしまうと、物件情報の開示範囲が極端に狭まり、他の不動産会社からの買手紹介が入らなくなるため、高値で売却できる可能性が低くなります。
囲い込みを避けるには、不動産会社との契約形態を複数の不動産会社に売却依頼できる「一般媒介契約」として、大手会社2社、地元密着会社1社の合計3社程度に売却依頼することです。それぞれに強みが異なるため、売主にとって良い買手に巡り合える可能性があります。
一方で、特定の不動産会社1社だけに売却依頼する「専属専任媒介契約、専任媒介契約」は、物件情報を他者へ知らせるレインズへの登録義務がありますが、いろいろ抜け道もあるので、やはり「一般媒介契約」とすることがおすすめです。
平田 康人
行政書士平田総合法務事務所/不動産法務総研 代表
宅地建物取引士
国土交通大臣認定 公認不動産コンサルティングマスター
