高齢化が進んでひとりで暮らす高齢者が増えれば、「孤独死」の件数も増加することが予想されます。自らが経営する賃貸住宅で「居住者」が亡くなっていることが判明した……というケースも、決して他人事ではありません。そこで本稿では、花原浩二氏、木下勇人氏、井上幹康氏の著書『不動産オーナー・管理会社のための 事故物件対応ハンドブック』(日本法令)より、賃貸住宅で居住者が亡くなっていた場合の対応方法について詳しく解説します。
義務は無いが…「供養」や「お祓い」を検討すべきワケ
⑥ 相続放棄の検討
もしも亡くなった方に借金、滞納家賃や滞納税などの負債があって相続したくない場合には、相続放棄が可能です。ただし、預貯金や動産などの相続財産を少しでも受け取ったり処分したりすると、相続放棄はできなくなります。
※注意点:賃貸住宅における賃借人の孤独死の場合、原状回復工事に多額の費用がかかることから相続人が相続放棄を選択するケースは少なくありません。相続放棄をした場合、残置物の撤去や原状回復工事ができないだけでなく、家庭裁判所に相続財産管理人の専任申立てを行い、管理人との間で賃貸借契約解除の合意ができるまでは、次の賃借人の募集を行うこともできなくなります。
よって、不動産業者としては、相続人の気持ちに寄り添い、不安の解消につながる提案ができるように、相続手続や特殊清掃、遺品整理などを安心して任せられる企業を選定しておくとよいでしょう。また、残置物の処理等に関する契約を締結しておくなどの対策も有効です。
⑦ その他
絶対ではありませんが、お寺に供養、神社にお祓いをしてもらうことで、次の借主に安心感を与えることになるでしょう。
当社の場合は、事故物件の対応依頼があった際、お寺での供養か神社でのお祓いの希望の有無を確認します。希望があり、特にどちらかの指定がない場合は、お寺を案内しています。供養の依頼があった場合は、数日後に日程調整のうえ実施します。供養代金は依頼先によっても異なりますが、およそ4~5 万円程度が一般的で、当日現金でお支払いしてもらいます。それ例外は手ぶら、普段着での参加が可能です。供養依頼のあった遺族の方からは、気持ちの区切りがついたという声をいただくことがあります。
また、買主・借主の方から、「事故物件でもご供養されていたら安心して住める」という声も多く受けます。お祓いや供養をすることで目に見えて何かが変化するわけではありませんが、そもそも事故物件自体が心理的な負担で敬遠される存在ですので、お祓いや供養を通して心理的にケアをすることで、より前向きに生活していくことができるのでしょう。
花原浩二
マークスライフ株式会社
代表取締役
木下勇人
相続・事業承継専門『税理士法人レディング』 代表
井上幹康
税理士・不動産鑑定士
マークスライフ株式会社
代表取締役
1977年、兵庫県豊岡市生まれ、流通科学大学情報学部卒業。阪神・淡路大震災の経験から地震に負けない家づくりをしたいと大和ハウス工業入社。2011年横浜支社分譲住宅営業所所長。2016年10月、増え続ける空き家問題を中心に、世の中の困りごとを不動産の可能性を追求することで解決したいと独立。事故物件のイメージアップや高額買取りへの挑戦を通じて事故物件マーケットを構築する「成仏不動産」、葬儀を儀式のビジネスから総合エンディングビジネスへと転換する支援サービス「葬祭事業者サポートサービス」など複数のサービスを展開。日本国内のみならず海外からも数多くの取材を受け、不動産業界の革命児として注目を浴びている。
著者プロフィール詳細
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連載不動産オーナー・管理会社のための事故物件対応ハンドブック
相続・事業承継専門『税理士法人レディング』 代表
税理士
公認会計士
宅地建物取引士
1975年、愛知県津島市出身。大学時代に宅建、不動産鑑定士を取得。28歳で公認会計士試験に合格し、「監査法人トーマツ」名古屋事務所に入所。上場企業級の非上場会社オーナーファミリーの事業継承対策に従事。約5年勤務の後、33歳で独立し、名古屋で公認会計士木下事務所・木下勇人税理士事務所を開設。翌2009年に、相続・事業承継専門の税理士法人レディングの代表となる。2017年、東京にも事務所を開設。現在、全国の税理士向け、保険募集人向け、不動産事業者向けなど、相続を取り巻くプロ相手に年間150回の研修講師をしながら、相続に関する情報を発信している。不動産鑑定士第2次試験合格者。AFP資格認定。東京税理士会 京橋支部所属。
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税理士・不動産鑑定士
税理士法人トーマツ(現デロイトトーマツ税理士法人)にて、東証一部上場企業含む法人税務顧問、税務調査対応、組織再編、IPO支援、M&Aの税務DD業務、税制改正セミナー講師、財産評価を中心とした資産税実務を経験。退職後、2018年7月に税理士として独立開業。非上場株式や不動産の評価業務、中小企業や不動産オーナーの事業承継コンサルティング業務を得意とする。税理士向けセミナー講師や執筆活動も行っており、税理士からの相談実績も多数。著書に『税理士のための不動産鑑定評価の考え方・使い方』(単著・中央経済社)がある。
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