日本の電機産業の競争力は劇的に低下。なぜ海外進出は〈競争力低下〉と〈国内生産尻すぼみ〉を招く“諸刃の剣”となったのか【経済学者が解説】

日本の電機産業の競争力は劇的に低下。なぜ海外進出は〈競争力低下〉と〈国内生産尻すぼみ〉を招く“諸刃の剣”となったのか【経済学者が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

日本経済の有識者である大守隆氏・増島稔氏の手によって、両氏を含む12名の専門家たちの論考が編集された『日本経済読本(第23版)』(東洋経済新報社)では「経済を理解するには、歴史、制度、事実、理論の各面を組み合わせて理解することがとても重要である。(引用元:同書はしがきより、執筆者 : 大守隆(元内閣府政策参与)」と言及されています。本記事では本書から一部抜粋・再編集し、日本企業の海外進出と競争力の低下について歴史、制度、事実、理論の各面から解説します。

日本企業の競争力低下の原因を読み解く4つのキーワード

電機産業においては、日本からアジア各国・地域への直接投資が拡大する中、日系企業との提携等を通じて現地企業が技術力を高め、消費者のニーズに沿ったコストパフォーマンスに優れる製品を供給するようになったのに対し、日本企業の多くは新たな成長分野でのコア・コンピタンスを確立することができず、事業の撤退やアジアの競合企業への事業の売却、技術者の流出(藤原綾乃『技術流出の構図:エンジニアたちは世界へとどう動いたか』白桃書房、2016年)など、負の連鎖に陥った。

 

部品や材料の生産では依然として競争力を維持している日本企業も多いが、全体としてみると衰退が著しい。半導体については、1988年頃には世界市場での日本企業の売上高シェアが50%を超え、世界ランキングのトップ10社のうち6社が日本企業であったが、日米半導体協定の影響などもあり、近年では日本企業のシェアは10%程度にまで低下し、トップ10社にも含まれていない。

 

半導体製造装置のような複雑度の高い製品では日本が比較的高いシェアを維持してきたが、ここでも国際的な競争激化にさらされている。また、中間財の供給は海外の最終財供給者の戦略変更等に振り回されるというリスクにも直面する。

 

一方、自動車については、日本のメーカーは海外生産を拡大しつつ、「すりあわせ」と呼ばれる垂直統合型のものづくりに強みを発揮し、裾野の広い国内の関連産業とともに国際競争力を維持してきた。

 

ただし、この分野においてもCASEと呼ばれる技術革新やMaaSの実装が進んでいるほか、各国における脱炭素化に向けた動きが目まぐるしく変化するなど、大きな変革期を迎えている。

 

コモディティ化

市場投入時には高付加価値だった商品について、他社が参入し、普及が進むにつれ、性能やブランド力などについて競合商品間の差がなくなり、価格競争に陥ること。

 

コア・コンピタンス

他社に比べ強い優位を持ち、その企業の競争力を支える分野のこと。

 

CASE

Connected(コネクテッド)、Autonomous/Automated(自動化)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化)といった領域での自動車の技術革新のこと。

 

MaaS

Mobility as a Serviceの略であり、公共交通やそれ以外の移動サービスを組み合わせて検索・予約・決済等を一括で行うとともに、交通以外のサービス等との連携により、移動の利便性向上や地域の課題解決にも資するもの。

 

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※本連載は、大守隆氏、増島稔氏の編書『日本経済読本(第23版)』(東洋経済新報社)より一部を抜粋・再編集したものです。

日本経済読本(第23版)

日本経済読本(第23版)

大守 隆・増島 稔(編)

東洋経済新報社

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