所得格差は拡大しているのか
日本がすでに所得格差の小さな国でないことは、統計のうえでも明らかになっている。格差を示す代表的な指標としてジニ係数がある。この指標はゼロに近いほど平等、1に近いほど不平等な所得分布であることを示す。OECDによると、税や社会保障による再分配を行った後の可処分所得でみた場合、2020年における日本のジニ係数は0.338となり、G7諸国のなかではアメリカ、イギリスに次ぎ3番目に高くなっている。
ジニ係数
格差や不平等度を測る指標でイタリアの統計学者ジニにより考案された。横軸に所得の低い世帯から高い世帯へ累積百分率をとり、縦軸に所得の累積百分率をとって結んだローレンツ曲線とその両端を結ぶ対角線で囲まれる面積の大きさ(図表1の斜線部分)と下半分の三角形の面積との比。1に近づくほど不平等度が大きい。
日本の所得格差は、1980年代以降拡大基調にあった(図表2)。税や社会保障による再分配を行う前の当初所得ベースでみると、ジニ係数は、80年の0.349から2020年には0.570へと大きく上昇している。
ワーキング・プア
2000年代半ばには、働いても低い収入しか得られない人々を称したワーキング・プア(働く貧困層)が話題とされるようになった。ワーキング・プアは日本では厳密な定義があるわけではないが、生活保護の水準や相対的貧困線が一つの目安となることが多い。
これまでの研究で、現役世代については、日本では失業や無業よりもパート、アルバイト等の非正規雇用で働いている人々の方が、貧困率が高いとの指摘もある(樋口・石井・佐藤[2011])。最近の研究でも、性別にかかわらず非正規雇用者の貧困率が正規雇用者と比べ顕著に高く、特に非正規雇用に就いている中年層男性の貧困率が高くなっている(阿部[2024])。専門家による能力開発を含めた助言や支援なども行いつつ、希望する人には正規雇用へのスムーズな転換を促進し、能力と意欲に応じた所得が得られるような労働市場の実現が重要となっている。
樋口美雄・石井加代子・佐藤一磨「貧困と就業――ワーキングプア解消に向けた有効策の検討」RIETI Discussion Paper Series, 11-J-056、2011年。
阿部彩「相対的貧困率の動向(2022年調査update)」JSPS22H05098、https://www.hinkonstat.jp/、2024年。


