ユニクロ、ヤマト運輸、ニトリ…が躍進するきっかけとなった、1990年代の一大トレンド「顧客満足」がもたらした世界【経済学研究院准教授が解説】

ユニクロ、ヤマト運輸、ニトリ…が躍進するきっかけとなった、1990年代の一大トレンド「顧客満足」がもたらした世界【経済学研究院准教授が解説】
(※画像はイメージです/PIXTA)

1980年代以降、企業の間では「顧客満足の追求」を管理することが一大トレンドとなった。顧客満足度を高めることで成功した企業もあれば、そのような経済のサービス化が社会全体の問題を引き起こすのではという懸念も生まれた。本稿では、北海道大学大学院経済学研究院准教授の満薗勇氏の著書『消費者と日本経済の歴史 高度成長から社会運動、推し活ブームまで』(中央公論新社)より詳しく解説します。

「外部不経済の問題」とは

さらに、顧客満足の追求には、当事者以外に負担が及ぶ外部不経済の問題があることも知られている(宮崎昭「顧客満足の外部不経済」『立命館経済学』59巻6号、2011年)。個々の企業が、それぞれ顧客満足の追求に焦点を当てるがゆえに、その周辺や第三者に生じる不利益や不満足に関心が及びにくくなってしまう。

 

たとえば、多くの顧客が乗用車を購入し、企業利益と顧客満足が達成されたとしても、多くの購入者の存在によって道路の混雑や渋滞が深刻化すれば、都市全体の機能低下につながり、購入者以外も不利益を蒙る。あるいは、自動車がもたらす大気汚染、騒音、交通事故なども、第三者にまで深刻な負の影響を与える(宇沢弘文『自動車の社会的費用』岩波新書、1974年)。

 

要するに、顧客満足の追求は、社会全体から見て望ましい結果をもたらすとは限らないのである。しかも、企業も顧客も満足してしまうために、そのことが不可視化されやすい。

広義の「顧客満足のジレンマ」

本稿では、以上に見た顧客満足の追求をめぐる問題点、すなわち1. 生産性上昇とのトレードオフの関係、2. 時間軸で見た期待水準の上昇、3. 外部不経済の発生とその不可視化という三点をまとめて、広義の顧客満足のジレンマと呼ぶ。

 

これらの問題点があるにもかかわらず、企業は競争のなかにあって、顧客満足の飽くなき追求から降りられないのである。サービス産業は製造業に比べて生産性が低く、持続的な経済成長を牽引する力が弱い。顧客満足のジレンマもまた、サービス経済化のもとでの持続的な経済成長を難しくする方向に作用する。そして現実に、ポストバブルの時代にあって、サービス経済化の進む日本経済は、長期経済停滞に陥ってきた。

 

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本連載は、満薗勇氏の編著『消費者と日本経済の歴史 高度成長から社会運動、推し活ブームまで』(中央公論新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。

消費者と日本経済の歴史 高度成長から社会運動、推し活ブームまで

消費者と日本経済の歴史 高度成長から社会運動、推し活ブームまで

満薗 勇

中央公論新社

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