CS(顧客満足)が定着した90年代後半
90年代後半になると、CS活動が定着したと言われ(『JMAマネジメントレビュー』1998年2月)、2000年代にかけて、病院の患者や役所の利用者、学校の生徒・保護者などをお客様と呼び換えて顧客満足経営の発想を取り入れる動きも広がった(『朝日新聞』1998年2月17日付、2001年9月20日付、2006年3月2日付)。
そもそもサービスには、モノの取引とは質的に異なる次のような課題がある(畠山芳雄「経済教室」『日本経済新聞』1989年11月1日付)。すなわち、サービスの生産と消費は同時に行われるため、不良サービスの事後的な代替は不可能で、また、サービスの供給は人手を介することが多いから、供給する人による品質のばらつきが生じやすい。
品質の良し悪しも実際にサービスの供給を受けた後でなければわからないため、消費者による口コミなどの評判が重要な意味を持つ。一人の顧客の一度の不満は、多くの潜在的な顧客を失うことに直結する。顧客満足の調査や指標化は、このようなサービス供給固有の課題に対応する意味を持っていたのである。
CS(顧客満足)を追求することで規模を拡大した企業
他方、より広い文脈で見て、顧客満足を徹底して追求することで、新市場の創造をともなう飛躍的な企業成長を達成した事例にも注目が集まった。東京ディズニーランドを展開するオリエンタルランド、宅配便というサービスを創り出したヤマト運輸、新業態のコンビニエンス・ストアを日本で定着させたセブン‐イレブン、SPA(Speciality store retailer of Private label Apparel :製造小売)というビジネスモデルで革新を起こしたカジュアル衣料販売のユニクロ、同様のビジネスモデルを家具販売で実践したニトリなどがそれにあたる。
当時社長として宅急便の開発に邁進したヤマト運輸の小倉昌男(1924~2005)は、「本当によいサービスとはお客様が求めることを実現すること、たとえば昼に留守の家庭があれば夕方に配達をすることだ」と語る(『Keidanren』1995年10月)。
ユニクロを興した柳井正(1949~)は、「会社は「お客様」のために存在するのが本質」で(柳井正『成功は一日で捨て去れ』新潮文庫、2012年)、「本当の顧客満足とは、お客様が欲しいと思っているものを、お客様が想像しないかたちで提供する」ことだと言う(柳井正『経営者になるためのノート』PHP研究所、2015年)。
ニトリの創業者・似鳥昭雄(1944~)は、かつて「売上と利益のことで頭がいっぱい」の頃には「ろくに利益も出ず」、しかし「「お客様第一」という方針で経営するようになってから、利益が上がり、株価も上がり、社員の待遇も改善されて」いったと振り返る(似鳥昭雄『ニトリ成功の5原則』朝日新聞出版、2016年)。
