注意点1.時間と労力
事務作業が得意であれば、インターネットで申請書のひな形を取得したり手順を調べたりできるかもしれませんが、ほとんどの人は一度は法務局へ相談に行くことになるでしょう。ちなみに法務局は事前予約が必要です。そうこうしている間に「あれ、思ったよりも時間と労力がかかるぞ…?」と気がつくはずです。
すでに仕事をリタイアしている人や時間に余裕のある人であればまだしも、現役で働いている人は自分の時間的価値を考えたほうがよいでしょう。自身の時給と司法書士に依頼した場合のコストを比較してみてください。
注意点2.登記漏れ(私道、共有持分、未登記建物など)
相続登記をする際には、まずは不動産を特定する作業が非常に大事です。しかし世間では、相続登記は人生で1~2回程度の手続きですから、自力でやると「一部の不動産について相続登記をやり忘れている」という事態も珍しくありません。
例えば私道です。私道は固定資産税が課されない場合もあるため、その土地の所有権を持っていることに気がつかないケースがあります。
また、他者と共有状態になっている土地も同様です。固定資産税の納税通知は最も多くの持分を持つ人等だけに届くなど、共有者全員に対して個別に請求が来るわけではないことから、自分に持分があることに気づいていなかったり、あるいは忘れていたりといったケースも生じます。
相続不動産がマンションだったときも登記漏れが起こりやすいです。マンションの場合は被相続人が所有していた専有部分(部屋)や敷地の持分だけでなく、共用部分(駐輪所や集会所、管理室など、他の部屋の人たちと皆で持っている部分)にも持分があるケースがあります。古いマンションは特にご注意ください。
さらには、そもそも建物が登記されておらず(未登記)、登記漏れに気づけないこともあります。本来は建物を建てた時点で「こんな建物を建てました」と最初の登記(=表題登記)を行わなければならないところ、その手続き自体が済んでいなかった例が実在するのです。
相続不動産の特定に慣れている専門家とは異なり、これらは一般の方にとって盲点となりがちです。ようやく手続きを終えたと思いきや実は登記漏れがあった…という事態にならないよう、十分にご注意ください。
注意点3.遺産分割協議書の作成ミス
これは換価分割を行う場合や遺産分割協議をやり直す場合、関係が良好ではない相続人がいる場合などにおいて特に要注意です。
換価分割というのは、不動産を売却し、現金に換えてから相続人間で分配していく遺産分割方法です。例えば3人の相続人(Aさん・Bさん・Cさん)で換価分割を行うとしましょう。ここで、遺産分割協議書に「相続不動産をいったんAさん名義にし、不動産を現金化する。そしてその売却代金から3分の1ずつB・Cに支払う」という旨を明記していたのであれば問題はありません。
ところが自力で相続登記を行った場合にありがちなのが、遺産分割協議書にそういったことを記載しないまま単純にAさん名義にして不動産を売却換価し、その後Bさん・Cさんへと内々に配ってしまうケースです。この方法では、売却代金の分配は「AさんからBさん・Cさんへの贈与」と見なされ、BさんとCさんに対して贈与税を課される可能性があります。贈与税は相続税よりも基礎控除額が低く、税率も高く設定されています。
遺産分割協議をやり直す場合にも、贈与税に関する怖い問題点が絡んできます。不動産の所有権は、遺産分割協議が一度まとまった時点で、その協議どおりに相続人に帰属します。やり直す場合はいったん所有権を得た相続人からまた別の相続人へ移転することになるため、税務上は贈与と見なされる可能性があるのです。
相続の原則を定めた民法という法律では、「遺産分割の効力は相続開始時にさかのぼる」とされています。つまり遺産分割をやり直した場合はいったん相続開始時に戻るので、改めて被相続人から相続人へ所有権が移ったことになり、相続人から別の相続人へ所有権が移転したわけではないということになります。にもかかわらず、税務上は相続人から他の相続人への贈与扱いになってしまいます。このように法律で定まっていることを額面どおりに行うと、税務面で大きな罠が待ち構えている場合があります。
一方、相続人が非協力的だったり疎遠だったりなど関係良好とは言えない場合は、遺産分割協議のやり直しが利かない可能性があります。自力で手続きする方法では、やっと話し合いがまとまって遺産分割協議書を作ったら書類の不備が判明した…という事態もありえます。
再作成して改めてハンコをもらうというやりとりがスムーズにできればよいものの、相続人どうしの関係がよくないと「いやいや、もうすでに1回ハンコを押したでしょ。これ以上の手間はかけられない」と反発されてしまうケースも起こりえます。
このような困った状況に陥らないように、あらかじめ、やり直し不要でミスのない遺産分割協議書を作る気持ちをもって取り組んでください。
注意点4.誰名義で登記するか
誰が相続するか(誰名義にするか)によって思わぬ損失が発生することがあります。
〈相続税が絡む場合〉
相続する人によっては相続税の軽減制度を利用できる場合があります(小規模宅地等の特例など)。それを考慮せずに誰が相続するかを決めると、税金面で大きな損失になる可能性があります。一般の方では判断が難しいところもあるので、税理士に相談するのも手です。
〈居住権が絡む場合〉
不動産の所有者と実際に住んでいる人の名義が異なると、思わぬトラブルが生じる場合があります。例えば父が亡くなったあと、父名義の実家を子ども名義に変更したとしましょう。ただし子ども自身はすでに独立していて、実家には母が1人で住み続けているという状況です。この場合、実家の所有者は子どもですから、子は実家を自由に使用したり、処分したりする権利があります。下手をすると、母が住み続けられない事態になるかもしれません。
実家の名義を子どもにするメリットももちろんありますが、居住権が脅かされないかなども考慮して判断しましょう。
〈不動産の売却が絡む場合〉
相続をする人は、不動産の売却が絡む場合も注意が必要です。まず決済(=不動産の引き渡し)までのスケジュールがタイトな場合、スピーディに進めなければならないという時間的なハードルがあります。
また、分割方法に伴う課税の問題にも気をつけなくてはなりません。不動産の分割方法の1つに「換価分割」があります。先ほども述べたように、不動産を売却し、現金化してから分けるという方法です(他には代償分割などの選択肢もあります。代償分割とは、相続人の1人が他の相続人に対してお金〔=代償金〕を払うことによって相続不動産の名義を取得し、相続登記をする方法です)。
売却が絡む分割方法では、遺産分割のやり方によって売却時にかかる譲渡所得税が想定外にも高くなってしまうなど、課税の問題が発生することもあります。
注意点5.特例等について
〈数次相続に関する特例〉
数次相続とは、被相続人が亡くなったあと、その遺産分割協議がまとまっていないなかで相続人が亡くなり、次の相続が開始された状況をいいます。これは当初亡くなった人の相続手続きが放置されている場合などにも起こりえます。
具体例を挙げましょう。父・母・子2人という家族構成において、最初に父が亡くなり、次に母が亡くなり、子2人が残されたとします。実はこの場合、父名義の不動産は子どもへダイレクトに登記することが可能ですが(このような登記を可能にする遺産分割協議書の書き方があります)、それを知らずに父名義の不動産をいったん亡き母との共有名義にしてしまうケースが少なくありません。ダイレクトに子どもの名義にする場合なら1回の登記申請で済むところ、これでは2回の登記申請となってしまうため、相続登記にかかる時間やお金(登録免許税など)が二重にかかってしまいます。
他にも、先ほどの不動産の売却が絡む場合にも関係しますが、「空き家の譲渡所得の3000万円特別控除」の適用がある場合では、あえていったん亡き母の名義にしてから子ども名義にしたほうが譲渡所得税が低くなる場合もあります。
数次相続など、2回にわたって相続が発生する場合には、思わぬ損をしてしまわないようご注意ください。
〈100万円以下の土地における免税措置〉
本稿掲載時点では2025年3月31日までの特例ですが、不動産評価額100万円以下の土地の相続登記においては、登録免許税(印紙代)がかかりません。ただし、免税を受けるには申請書に法令の条項(=「租税特別措置法第84条の2の3第2項により非課税」)をきちんと記述しなければなりません。
現状の免税期間は2025年3月31日までですが、25年4月以降がどうなるかは未定です。もしかしたら延長される可能性もあるかもしれません。知っているか否かで損得が分かれますので、今後の情報もチェックすることをおすすめします。
注意点6.不備があった場合の「補正」の手間
相続登記の手続きに不備があった場合、法務局から呼び出しがかかり、「補正」をすることになります。補正にあたっては原則として申請者が窓口へ行く必要があります。
法務局の窓口が開いているのは平日のみです。また、不動産が遠方にある場合は、その所在地を管轄する法務局まで赴かなければなりません。人によっては会社を休まなければならず、交通費もかかります。相続登記を自力で行う場合には、補正にかかる負担も考慮したほうがよいでしょう。
いつまでも補正の対応をしない場合は、法務局から登記申請を却下されることになります。
相続登記の義務を着実に履行するために
以上が、自力で相続登記を行う場合の注意点です。相続登記の落とし穴や想定外の損失を回避するのに役立つとともに、自力で行えそうか、あるいは司法書士に依頼するべきかどうかを判断する材料にもなるでしょう。場合によっては、実際に司法書士に相談したうえで決めるのもよいかと思います。
佐伯 知哉
司法書士法人さえき事務所 所長
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