戸建分譲住宅経営の本質はSPA
中小の分譲住宅会社が取るべき戦略を検討するうえで、注文住宅事業との比較は重要です。
顧客と施工者が打ち合わせを重ねて商品を一緒に作り上げていく注文住宅事業は、間取りや仕様を顧客が決め、職人に工事を任せるという「請負事業」です。
一方の戸建分譲事業では、顧客は業者があらかじめつくった土地と建物(合わせて「商品」)を購入します。業者が土地や材料を仕入れて企画し、形にしたものを販売するという点ではさながら「製造業」の様相を呈しています。
私は従来、戸建分譲経営の本質を、アパレル業界のSPA業態に似ていることから「SPA型分譲経営」と表現してきました。[図表1]
SPAとは、Speciality store retailer of Private label Apparel の略称で、垂直統合型のサプライチェーンモデルである「製造小売業」を指します。このビジネスモデルは元々アパレル業界で生まれたもので、1986年にアメリカの衣料品小売大手GAPが最初に始めたといわれています。
ZARA、H&M、ユニクロなどの多くの衣料品小売企業がSPAパワーを原動力として市場を席巻していますが、近年ではアパレル分野以外でもこのモデルを取り入れる企業が増加傾向にあります。
SPAでは、製造と小売だけでなく、部品や原材料のサプライヤー、研究開発、商品企画、プロモーション、さらには物流までを一気通貫で統合するのが特徴です。メリットとしては、低コスト、短いリードタイム、顧客ニーズの的確な把握が挙げられます。
SPAでは、原材料の調達においても商社などを介さずに直接仕入れをおこないます。流通過程でも卸などを経由せずに自社直営で販売することで、結果的にコストを抑制することができます。
加えて、販売・在庫・顧客情報をサプライチェーン全体で共有できるため、リードタイムの短縮が可能となり、顧客が求めている最新のトレンドを迅速に企画・開発に反映させることができるのです。
売建比率をどれだけ高められるか
SPAとは、顧客が買いたいと思うものを素早く用意し、販売することだといえます。住宅業界、特に戸建分譲経営においては、用地仕入れや商品開発のスピード、マーケットのインサイトをとらえることが肝要です。
というのも、戸建分譲事業は損切り判断が求められるビジネスだからです。つまり、「売上(棟数×価格)」「利益(売上−コスト)」に加え、「時間軸(スピード)」の因子が存在するなど、在庫を速く回転させていくことが重要で、不動在庫化するくらいなら多少の利益を犠牲にしても売りさばいてしまう選択が欠かせません。
一つひとつの利益率を確保していくPL経営ではなく、資産(不動在庫資産)になる前に売りさばき、同時に仕入れ活動を進めるといったB/SとCS(キャッシュフロー)による経営が求められるのです。[図表2]
昨今、中小の注文住宅会社が新規事業で分譲業界に参入するケースが増えていますが、それらの会社が苦戦している原因はここにあります。「一棟あたりの利益率を一定以上必ず確保する」という注文住宅事業的な考えを捨て去ることは難しいからです。
さらに、分譲事業には「建売事業」と「売建事業」と呼ばれる形態があります。
売建事業は、デザインや仕様・間取りプランを企業側が確定させ、建築確認申請の許可がおりたものを顧客に販売する(建てる前に売る)事業です。自社で用地を持つ強みを最大限に活かし、販売スピードとキャッシュフローの効率化が実現できる観点からも、売建比率をどれだけ高められるかが目指すべき理想の戸建分譲経営であるといえます。
これには、商品力、ブランド力、マーケティング力をつけることが求められます。