値引き前提の経営から脱却する
集客数、契約率、販売価格が下降気味で上がる傾向にあるのは原価のみ──昨今の戸建分譲事業の経営者にとって、まさに正念場といえる状況です。これまでも需要低迷は何度も繰り返されてきましたが、いずれの時代も販売価格を調整するなどで事なきを得てきました。
しかし昨今では、需要低迷のみならず、業績数値に直結する「原価UP」というマイナス要因が重くのしかかっています。企業側の体力がもたなくなってきているのが事実で、販売価格を下げるだけの調整では限界がきています。
特に、経営者が利益を確保するための手立てが見えていないことには注目すべきです。なかには、事業をシュリンクさせる道を選ぶ経営者に出会う機会も増えてきました。「これをやりさえすれば状況を打開できる」というものがないので無理もありません。靄がかかった細い橋の上を、なんとか落ちないようにと慎重に渡るようなものです。
そのようななか多くの戸建分譲会社は売上を確保しようと、値引きを覚悟しながら販売価格を低く設定し業績悪化を防ごうとしています。特に顕著なのは、販売価格を下げたことによって目減りした業績を補うべく、目標棟数を多く計画する会社が増えていることです。
しかしそれでは問題の解決にならないどころか、ますます苦しい道を自ら選択することを意味します。
例えば、営業利益率5%の戸建分譲会社があるとします。この会社は、5,000万円の戸建分譲住宅を年間200棟販売しています。売上100億円、営業利益は5億円です。
もし、1棟あたりの販売価格を100万円UPさせるとどうなるか──5,100万円×200棟で売上は102億円になります。2億円がプラスされるので利益へのインパクトは大きく、営業利益7億円で営業利益率が大きく高まります。
一方、1棟あたりの販売価格を100万円DOWNさせるとどうなるか──4,900万円×200棟で売上98億円です。今度は、2億円が「消滅」するので営業利益は3億円になります。
このように、2つのパターンの営業利益の差は4億円にものぼります。
ところで、後者のパターンで2億円の営業利益を取り戻す(営業利益5億円を維持する)には40億円の売上が必要になります。
40億円の追加売上を達成するために、この会社では82棟追加して売らなければなりません。元々200棟の販売実績の会社が、実に40%の棟数を新たに加えなければならないのです。
「価格を維持、UPさせることが重要なのはよく分かる。しかし、具体的にどのようにすれば価格を下げなくて済むのかが分からない」、このような経営者は多いと思います。
「値決めが大事だと結論づける経営書の価格戦略論だけではなく、住宅業界特有の事情に考慮された具体的な方法論がないと解決しない」という意見は、私も同様に経営の最前線にいる経営者の意見としてよく分かります。
戸建分譲会社は、弱気な価格設定や値引きをやめ、設定価格を上げても売れるような会社へと変貌していかなければなりません。
これまでの成功要因を疑い、これからの時代に合わせた事業のアップデートが求められています。用地、建材、設備などの原価が上がっているが、販売価格に転嫁しきれていないのであれば、自社がとるべき施策を整理していく必要があります。