親が作成してくれた遺言書が、中途半端な内容の遺言書だった場合、相続人たちはどのような困難に直面するのでしょうか。本記事では、残っていた遺言書が不明確な内容だったことで生じる悲劇と、それを回避するための正確な遺言書の作成の重要性について、三浦裕和弁護士が具体的な事例を交えて解説します。

自分がいなくなったあとのことを考えて…

80歳の森昭彦さんは代々続く地元の名士として、また地域に密着した町工場を営業する社長として、広く地域に知られていました。昭彦さんが保有していた財産は以下のとおりです。

 

  1. 自宅
  2. 預貯金
  3. 事業資産(土地建物・機械類)

 

昭彦さんは早くに妻を亡くしていて、広い自宅に一人で暮らしていました。相続人は、45歳の長男・哲也さん、42歳の長女・典子さん、38歳の次男・和也さんの3人。昭彦さんは、きょうだい3人が争わないようにするため、以下の遺言書を作成しました。

 

遺言書

 

私の財産のうち、自宅は長男哲也に譲る。預金は長女典子に譲る。そして、事業資産は和也に譲る。

 

2020年7月吉日  森 昭彦 ㊞

 

昭彦さんは、この遺言書を作成したあと、封筒に入れて、書斎の引き出しのなかにしまいました。その後、1年経過したころ、体調を崩し、昭彦さんはそのまま亡くなってしまいました。

悲劇の始まり

昭彦さんの会社を手伝っていた次男の和也さんは、昭彦さんが亡くなったあと、昭彦さんの書斎から封筒に入った遺言書を見つけました。遺言書は、封がされていました。

 

昭彦さんは慌てて、哲也さんと典子さんに連絡をして、昭彦さんの遺言書を3人で開封しようと声をかけました。これに対して、長女である典子さんから、手書きで書かれた遺言書は、家庭裁判所で検認手続の申し立てを行い、そこで開封しないといけないと言われました。

 

和也さんは、ネットで検認申立て手続きの方法を調べて、家庭裁判所に検認手続きの申立て手続きを行いました。

 

そして、検認手続期日当日。3人は家庭裁判所に出廷しました。そこで開封された遺言書を確認しました。

 

和也さんは、遺言書の本文に「事業資産は和也に譲る。」との記載があったので、事業を継ぐことができると一安心しました。

 

しかし、遺言書を隣で眺めていた典子さんから、一言。「2020年7月吉日って書かれているけど、具体的にいつ書かれたかわからないから無効じゃないの?」

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