代襲相続と元妻(義妹)の主張で遺産分割が複雑化
70歳の美幸さんは、65歳の妹・佐和子さんとともに、90歳で亡くなった父親の遺産分割を進めようとしています。遺産は、3,000万円の預貯金(3つの銀行口座に各1,000万円)と父が亡くなって空き家となった築40年の一軒家とその敷地(評価額3,000万円)の合計6,000万円です。
美幸さんは当初、父親の遺産を妹と2人で分けるつもりでしたが、10年前に亡くなった長男の盛夫さん(享年58歳)のこども1人が代襲相続人として関与する可能性があると知り、混乱しています。
さらに、盛夫さんの元妻(義妹)が「私はこの家に尽くしてきたのだから、3,000万円欲しい」と主張しているとの話を聞き、感情的に拒否したい気持ちが強まっています。
「盛夫さんのこどもに遺産を渡す必要があるのか? 元妻(義妹)にもお金を払わなければならないのか?」という美幸さんの不安に、相続専門の弁護士が答えます。
解説
代襲相続や配偶者の権利など、相続は複雑な制度が絡みます。今回のケースを整理し、具体的な対応方法をステップごとに解説します。
1. 盛夫さんのこどもの相続権について
代襲相続の仕組み
代襲相続とは、相続人となるべき人がすでに亡くなっている場合、その人のこども(直系卑属)が相続権を引き継ぐ制度です(民法887条2項)。今回のケースでは、亡くなった長男の盛夫さんのこどもが代襲相続人となります。
2. 盛夫さんの元妻(義妹)の主張について
(1)元妻(義妹)に相続権はない
元妻(義妹)は、被相続人との関係では血縁関係がなく養子縁組もしていないことから、相続人ではありません。そのため、元妻(義妹)が「3,000万円欲しい」と主張しても、法的根拠はありません。
(2)元妻(義妹)に特別寄与料が認められる可能性
2019年7月1日より民法改正により「特別寄与料」を請求できる規定が施行されたことにより、相続人以外の親族が、被相続人に対して無償で介護や療養看護などを行い、財産の維持や増加に特別な貢献をした場合、相続人に対して金銭を請求できるようになりました。この制度を元妻(義妹)が利用する可能性について検討してみましょう。
ア 元妻(義妹)が特別寄与料を請求する要件
特別寄与料が認められる条件は、①請求者が相続人ではないが被相続人から見て民法上の親族であること(相続放棄、相続欠格等により相続権を失った者は除きます。)、②被相続人に対して療養看護などの労務提供をしたこと、③②によって被相続人の財産の維持・増加について特別の寄与をしたこと、④②が無償であることです。
イ 元妻(義妹)が特別寄与料を請求する余地はない
元妻(義妹)は、離婚しており、民法上の親族ではないことから、上記①の請求権者に該当しないため、特別寄与料の請求をすることができません。
(3)美幸さんがすべき対応
元妻(義妹)の主張には法的な根拠がないため、冷静に対処することが重要です。仮に義妹が代襲相続人であるこどもを通じて主張している場合、遺産分割協議はこどもとの間で進めれば十分です。