こんなはずでは…85歳父の介護に励むも〈53歳長男〉が後悔してもしきれない痛恨のミス。父の死後、2歳年下弟からの〈最後通牒〉に撃沈したワケ【弁護士の助言】

こんなはずでは…85歳父の介護に励むも〈53歳長男〉が後悔してもしきれない痛恨のミス。父の死後、2歳年下弟からの〈最後通牒〉に撃沈したワケ【弁護士の助言】

中村康夫さん(仮名・85歳)は遺言書を作成せずに急逝し、妻である84歳の聡子さん、長男である53歳の誠さん、次男である51歳の俊夫さんが残されました。遺言書を残さずに亡くなった場合、相続人たちはどのような困難に直面するのでしょうか。本記事では、遺言書がないことで生じる悲劇と、それを回避するための遺言作成の重要性について、具体的な事例を交えて三浦裕和弁護士が解説します。

「8050問題」に直面していた家族で起こった悲劇

85歳の中村康夫さんは、遺言書を作成しないまま、84歳の妻・聡子さん、53歳の長男・誠さん、51歳の次男・俊夫さんを残して急逝しました。

 

俊夫さんは成人後すぐに結婚し親元を離れていましたが、誠さんは就職氷河期に職を失って以降、定職に就かず親元で暮らし続けていました。中村家は、80代の両親と50代のこどもが同居する、いわゆる「8050問題」に直面していた家庭でした。

 

誠さんは康夫さんの介護を献身的に行っていました。そのため、康夫さんは誠さんに自宅を相続させたいと考えており、聡子さんもそれに同意していました。

 

康夫さんが亡くなったあと、聡子さんは、喪主として康夫さんの葬儀を取り仕切りましたが、葬儀が終わってしばらくすると、緊張の糸が切れたかのように認知能力が衰え始めました。

 

誠さんは聡子さんを自宅で面倒を見続けるつもりで、世話を続けていたものの、聡子さんの様子を見た俊夫さんは、「施設での生活のほうが快適だろう」と主張し、一方的に施設との契約を結び、聡子さんを施設に入居させてしまいました。

 

その後、聡子さんの施設費用をどう負担するか話し合うなかで、俊夫さんは遺産分割の話を持ち出しました。康夫さんの財産の大部分を占める自宅について、誠さんは引き続き住み続けることを希望しましたが、俊夫さんは「母の施設費用や自分の相続分のために自宅を売却すべきだ」と主張しました。

 

誠さんは、聡子さんに意見を聞きに行きましたが、聡子さんは、認知症が進行してしまい、誠さんが自宅を相続したいとの主張に対しても、以前賛成の意見を述べていたことははっきりとは覚えていない様子でした。

 

誠さんは俊夫さんと何度か協議しましたが、話し合いは平行線をたどりました。最終的に、俊夫さんは聡子さんの後見人を選任し、法定相続分を前提とした遺産分割調停の申立てがなされました。

戦う手段が…ない。

誠さんは、康夫さんの遺産分割について、弁護士に相談しました。誠さんは、弁護士から、①遺言書がない場合、法定相続分に基づく分割が基本となること、②介護に対する寄与分の主張は可能であるが、自宅を取得するには相当額の代償金が必要となる可能性があることを告げられました。

 

誠さんは、聡子さんが元気だったときに自分が自宅を取得することに賛成してくれていたので、聡子さんの理解を得られるかもしれないと期待している旨を弁護士に伝えました。

 

しかし、弁護士からは、「後見人がついてしまった以上、後見人は、聡子さんの財産を守るための行動をするため、後見人が聡子さんの取得分を減少させるような協力を得られることはないだろう」と告げられました。誠さんは絶望的な気持ちになりました。

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