お兄ちゃん、もしかして偵察に来てる?東京23区内にいくつもの土地を所有する地主の父と2人で暮らす42歳・女性。「兄の訪問」に動悸が止まらないワケ【弁護士の助言】

お兄ちゃん、もしかして偵察に来てる?東京23区内にいくつもの土地を所有する地主の父と2人で暮らす42歳・女性。「兄の訪問」に動悸が止まらないワケ【弁護士の助言】

遺産が多ければ多いほど「相続争い」が起こる可能性は高まります。特に「不動産」を中心とした相続の場合は考慮すべき事項が多く、無策でいては、親の死によって今まで良好だった親族の絆がバラバラになってしまうことも……。相続を円満に進めるには、どのようなポイントに注意すべきなのでしょうか。そこで本記事では、母の死を機に実家へと戻り、今は父と2人で暮らしている亜弓さん(仮名・42歳)の事例とともに、円満な相続を実現するための具体的な法的対応について、相続専門の弁護士・板橋晃平氏が解説します。

亜弓さん(42歳・女性)が「遺産相続」に不安を募らせるワケ

亜弓さん(42歳・女性)は父と実家で暮らしながら、フリーランスの翻訳業を営んでいます。74歳の父は東京23区内にいくつもの土地を所有する地主で、数年前に母が他界したことをきっかけに亜弓さんは実家暮らしすることを決めました。

 

亜弓さんには兄(45歳)と妹(38歳)がいますが、友人からは「実家暮らしで家賃もローンもなくて羨ましい」と言われることが多いです。確かに経済的には恵まれていると感じますが、最近、父が亡くなったあとの遺産相続について不安が募っています。

 

土地が広く価値も高いため、相続時に兄妹間で揉めるのではないか、相続税の負担はどうなるのか、といったことが亜弓さんの頭をよぎるようになりました。法律や相続の仕組みに詳しくないため、「相続争い」という言葉には大変そうなイメージを抱いています。

 

なんとなくですが、近頃兄の訪問も増えた気がします。父の体調も良くないのでもしかしたら「偵察に来ているのかな?」と疑ってしまうこともしばしば。亜弓さん自身は穏やかな性格で争いごとを好まないので、平等に分けられればと思っているのですが、最近は兄が来るだけで動悸がするようになりました。何より、わりと仲が良いほうだった兄を疑っている自分が心底イヤになります。

 

兄妹間で話し合いがまとまらなければ、裁判沙汰になることもあるでしょう。できれば穏便に、スムーズに相続を進めたいと願っています。

 

さて、このような状況で、亜弓さんは父に何かをお願いしたほうがよいのか、自分で何かしておくべきなのか……今からどのような準備をしておけばよいのでしょうか?

地主の相続は複雑…早めの準備が不可欠

不動産を中心とした相続では、遺産分割が困難になりやすく、代償分割や換価分割の検討、相続税の納税資金の確保、共有名義のリスク回避など、考慮すべき事項が多岐にわたります。

 

特に、ご相談者様のように被相続人(父)と同居している場合、自身の居住権をどのように確保するか、また、兄妹間の公平な遺産分割をいかに実現するかが重要となります。

 

本記事では、

 

  • 現在の財産を正確に把握する方法(財産目録の作成)
  • 相続税の試算と納税資金の確保策
  • 公平な遺産分割の方法(代償分割・換価分割)
  • 同居している相続人の立場を考慮した遺産分割の調整方法
  • 被相続人(父)の意向を最大限反映した公正証書遺言の作成

 

といった流れで、円満な相続を実現するための具体的な法的対応を弁護士の視点から解説します。

解説

【地主特有の相続問題】弁護士が考える法的リスクと対応策

1. 現在の資産を特定し、財産目録を作成する

財産目録とは、将来被相続人となる方が有する現在の財産と負債を明確に記載した一覧表です。

 

円満相続の第一歩として、将来の相続財産の範囲と評価額の概算を明確にすることが不可欠です。将来の相続財産の特定や評価が不十分なままでは、適切な生前相続対策をすることができず、いざ相続が発生した際に、相続人間で認識の齟齬が生じ、紛争の原因になりかねません。

 

(1)財産範囲の把握

 

以下の項目を整理し、被相続人となる方のみならず、推定相続人全員がどれほどの財産が将来遺産となるか把握できるようにしておくことが望ましいです。被相続人となる方の相続がいつ発生するかによって、財産の範囲が変動することとなりますが、まずは現時点での財産の範囲を把握しましょう。

 

  • 不動産:所有する土地・建物の登記簿謄本、固定資産税評価額、路線価
  • 金融資産:現金、預貯金、株式、投資信託、退職金
  • 動産:自動車、貴金属、その他資産性のある物
  • 負債:住宅ローン、借入金、税金未納分
  • 生命保険:契約内容、受取人の指定

 

(2)財産の試算について

 

財産の範囲を把握したあとは、それぞれの財産の試算をすることとなります。

 

不動産の評価額は相続税の評価の基礎となる「路線価方式」または「固定資産税評価額」を基準として試算してみるとよいのではないでしょうか。もっとも、収益物件や特殊な不動産に関しては、上記基準では適切な評価ができない可能性があることから、場合によっては不動産鑑定士や税理士と協力し、財産の時価評価を行うことが望ましいです。

 

不動産以外の財産に関しては、現時点で現金に換価した際の金額を評価額とすることが多いです。

 

負債は、現時点で弁済することとなる残額を評価額とすることが多いです。

 

2. 相続税の試算と納税資金の確保策

上記で述べた財産目録を作成するとわかるのですが、地主の相続では、不動産が遺産の大半を占めており、生前相続対策をしていないと相続税の支払が困難になるケースが多くなります。

 

納税資金を確保する方法として以下の施策を生前のうちから検討しておかなければなりません。生命保険の活用(非課税枠:500万円×法定相続人数)

 

  1. 不動産売却の検討(一部換価し、納税資金を確保)
  2. 延納・物納の活用(一括納付が困難な場合のための税務手続)

 

具体的な納税資金の捻出は個々の家庭によって異なりますので、あなたに合った納税資金の確保の方法を見つけるためにも、弁護士や税理士等の相続の専門家に相談しましょう。

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