二次相続時、何の対策もとらないまま・・・
実質的な増税に備え、大切な資産を守り次世代につなげていくためにも、正しい節税対策を考えないといけません。しかし、相続税の申告を多く手がけているか、事前の対策に慣れている税理士(以降、相続専門税理士)でないと納税の時に多くの資産を失ってしまうケースがあります。
ここで、一つ実例をお話ししましょう。Aさんは、東京近郊に住む地主の一族です。5人の兄弟がおり、父親はすでに他界していました。父親が亡くなった時の一次相続では、母親が配偶者の税額軽減規定を活用し、なんとか現金で相続税を払うことができたものの、残ったのは不動産だけになりました。
「配偶者の税額軽減規定」とは、被相続人の配偶者が財産を相続しやすいように作られた制度です。法定相続分あるいは相続財産の1億6000万円までは非課税となる、非常に控除枠が大きい制度です。これに、前述した基礎控除が加わります。しかし、母親が引き継いだ財産を子どもが相続する二次相続ではそうはいきません。
結局、二次相続において、相続人には億単位の相続税が課税されることになりました。相続することになる財産はほとんどが不動産。Aさんの兄弟も納税資金など持っていません。そこで、父親の代から付き合いのある顧問税理士に相談することにしました。
ところが、その税理士は法人税の申告は得意でしたが相続税の申告は不慣れで、その納税に対しても何の対策も打つことができないまま、相続が発生してから10か月後、相続税の申告と納税の時期が来てしまいました。その間、土地の価格が徐々に下落し、路線価での評価と大きな差が出ていました。結局、Aさんは泣く泣く所有していた土地のほとんどを売却し、納税するはめになったのです。
地主の相続を成功させるには、幅広い専門知識が不可欠
この件では、相続専門税理士であれば迷わず「物納」を選んだと思います。
物納とはその名の通り、現金ではなく株式や不動産などの現物で納税することです。相続における物納といえば、故・田中角栄元首相のケースが知られています。田中角栄氏の遺産総額は、119億4000万円。最終的に相続税は約65億円にものぼりました。それを奥さんの田中はなさんと長女の眞紀子さん、養子となった直紀さん、その他相続人2人の合計5人が相続しました。
もちろん、田中さんは預貯金で全資産を保有していたわけではありません。納税資金をどうやって調達するかが問題になったことは、容易に想像できます。しかし、田中家の相続は相続税の専門税理士に依頼していたため、最も合理的な物納という方法を選ぶことができたのです。
どの土地を物納するのか検討が行われ、田中家は最終的に目白台に所有していた広大な土地の半分を物納しました(現在、その土地は「目白台運動公園」として知られています)。現在はできるだけ現金で納税させようと、物納の条件が厳しくなっていますが、まったく活用できないわけではありません。
Aさんの事例のように、相続が発生した時の路線価の評価が高く、相続税を申告するまでの10か月の間に市場価格が下がっていくケースであれば、売って現金化するよりも、物納の方が結果的に賢く税金を納めることができます。
地主には複数の土地を所有している人が多く、中には不整形地だったり、道路が狭く市場価値の低い土地だったり、広大地といって、宅地として活用するには広すぎて、開発しないと売れない土地があるかもしれません。そういう土地でも、一定の基準を満たすことで物納することが可能です。Aさんの顧問税理士がそのことを少しでも知っていたら、相続税を大きく減らすことができたと思いますし、納税もきちんと終わらせることができた可能性は高いでしょう。