時価総額15億円の自社株 その評価をどう下げるか?
北関東の、あるホテルチェーンオーナーのケースを紹介しましょう。
この未上場ホテルチェーンの株式は、時価総額で15億円。株式の9割はオーナーが所有しています。通常、相続で事業承継を行うためには、自社株の評価をいかに下げるかがカギになります。自社株の評価が高い場合、相続の発生時、評価額と一緒に相続税も高くなります。もちろん、生前贈与をする場合でも、評価額が高い場合は高額の贈与税がかかることになります。
その会社は、毎年2億円の利益を出していました。さまざまなシミュレーションをしてみた結果、5000万円くらいの利益であれば、株式評価が下がるということが分かったのです。そこで、従業員の福利厚生のための保険と役員の退職に備えた保険などを組み合わせることで5000万円の利益に抑えたところ、株式評価は1億数千万円になり、約1/10まで資産を圧縮することができました。
そのオーナーには子どもが2人いるので、相続時精算課税の制度を使って2人に株式を生前贈与しました。平成28年にその制度を活用して贈与したため、仮に平成50年ぐらいにオーナーさんが亡くなり、相続がスタートした場合は平成28年の数字で株式の評価を行い、相続税を支払うしくみになっています。ですから、平成50年ぐらいに仮に時価評価額が25億円になっていたとしても、平成28年の1億数千万円で計算することができるのです。
「日本史上最高額」と言われる松下幸之助氏の遺産
相続税の税負担の大きさを表す時、「相続が三代続くと財産はほとんど残らない」という話を聞きます。相続税は累進課税のため、相続した財産が多ければ多いほど高い税額がかかってくるのと、税制改正で最高税率が55%と、非常に高額税率に変更されたためです。
改正された相続税率では、相続人1人あたりの遺産額が6億円を超えると、税率が55%も課税されます。複数の土地の地主や経営者にとっては気が気ではない話でしょう。
現在「日本史上最高の遺産額」と言われているのが、松下幸之助さんの遺産です。
その額、なんと約2450億円。遺産の97%以上は松下グループの株式でした。発行株式は8700万株、時価総額が2387億円だったのです。これに対し、相続税が854億円も課されました。
相続人は、奥さんと娘さんたち計7人。奥さんが配偶者控除を活用して、相続財産の1/2に相当する1224億円を相続しました。残り6人の相続人には合わせて854億円の相続税が課税されましたが、奥さんは配偶者控除を活用して相続税はゼロに。854億円の相続税を支払うために、松下家は松下電器グループに930億円で株式を売却したのです。
配偶者控除については、著書『お金持ちのための最強の相続』で
ところが、幸之助さんが亡くなった5年後に奥さんも亡くなり、二次相続が始まります。課税対象となる相続財産は56億円で、相続税は39億円でした。相続財産が一気に減っているのは、生前贈与を活用した結果でしょう。幸之助さんが亡くなった年に約840億円、翌年に245億円を孫4人に生前贈与し、25億円を寄付したそうです。
ただし、多額の相続財産を一度に贈与したため、当時の最高税率である70%が課税されています。それでも生前贈与をしたおかげで、きちんと財産を残すことができました。もし二次相続で何の対策もしていなかったら、財産の9割以上は税金で取られていたことでしょう。つまり、孫の世代には、1割も残らないことになるのです。
一次相続後の財産……1-0.7=0.3
二次相続後の財産……0.3×(1-0.7)=0.09
だからこそ、相続税には早めの対策が必要なのです。