かつては土地の売却で納税資金を作れたが・・・
また、財産のほとんどを不動産で所有している人は納税時、特に気をつける必要があります。相続税が課税される人の多くは、課税対象となる相続財産を不動産で所有している割合が多いことが、下記の統計資料から分かっています。
たとえば、2014年の相続財産の内訳を見ると、土地が41・5%、家屋5・4%、有価証券15・3%、預貯金等26・6%、その他11・2%となっています。つまり、多くの人が不動産を持って相続を迎えることになるのです。
財産の多くを不動産で所有してきた背景にあるのは、バブル期の相続税対策です。90年代初頭までは「不動産さえを持っていれば、いざという時に売って現金にして納税資金を確保できる」という考えの人たちが多かったのです。
もう一つの大きな要因として、土地・建物の時価と相続税評価額の乖離が5:1くらいの比率になっていたことがあげられます。現金なら一億円だが、不動産を買えば2000万円の評価になるならそうしよう、と考えたのです。
その動きを見た国は、「土地に逃げた資金で税金を減らそうなどもってのほか」とばかりに、土地の相続税評価を上げること(課税強化)にしました。
しかし、その後バブルが崩壊して急激に地価が下落しました。ところが今度は、地価が下がっても、相続税の計算に用いられる路線価はそれほど下がりませんでした。このため、不動産を売っても予定通りの納税資金が足りなくなる人たちが続出したのです。
やむなく、政府は不動産で納めるための物納という制度に特例を認めたり、延納・物納制度の整備を図りました。相続破産する人たちを救済する方向にかじを切ったのです。
今後は財産を残すための「正しい相続税対策」が不可欠
下記の「地価公示指数の推移と相続税の改正」というタイトルのグラフを見てください。公示地価が下がっているのとは対照的に、基礎控除額が大きく引き上げられています。不動産バブルで相続破産が増え、土地の時価が急降下したため、基礎控除額を上げて相続税を実質的に減税したのです。
そういった時代背景があったため、いまだに財産を土地で所有し、土地を売って相続税を納めればいいという「土地神話」を信じている人たちがたくさんいます。
ところが、いまの国の方向性は法人税率を下げる代わりに、個人に対しての所得税率と相続税率は上げ、さらに基礎控除額を大きく減らしました。多くの人が課税される可能性があるいま、正しい相続税対策を取らなければ、財産を後世に残していくことは非常に難しい状態にあるのです。