もめる原因になりやすい「相続財産=自社株」のケース
資産に不動産だけではなく、「事業」もある場合はさらに複雑です。
同族経営の中小企業の場合、自宅までもが会社所有になっているケースが多く、相続財産のほとんどは自社株です。事業の場合、現金や不動産がないので、相続人が複数存在する場合は遺産分割で不公平が生じやすく、もめる原因になりやすいのです。
金属の加工業を40年間行っている会社のケースを紹介します。
「創業者である父親が倒れ、今後どのように相続したらいいのか分からない」という長男からの相談でした。
相続財産を計算してみると、自社株が4億5000万円、自宅が1億円、不動産が1億円、現預金が5000万円で合計7億円の資産がありました。概算でも1億8000万円ほどの相続税がかかります。
長男は事業承継をしたいと考えており、自社株と納税資金である現預金を自分が相続し、母親は自宅と自社株の一部を相続し、長女と次女にはその他の不動産を共有すれば姉妹は納得するだろうと考えていました。しかし、姉妹から「その配分ではとうてい納得できない」と、待ったがかかったのです。
私は、自社株の評価が高いことと、換金しづらいということを説明しました。そして、母親へ5割に当たる3億5000万円、長男が3割強の2億5000万円、長女と次女は1割弱の5000万円ずつを相続することで話し合いは決着しました。
株式評価のやり直しと納税猶予の申請で、納税が可能に
ところが、引き下がれないのは長男です。話し合い通りに遺産が分割されれば、財産の大部分が分割されてしまうため相続税を支払うことが難しくなり、さらに会社経営も財産がなければ難しくなっていたのです。
そこで、私は長男に対し、自社株の相続に納税猶予を利用して大幅に納税額を減らすことと、長女と次女に代償分割で財産を分けることを提案しました。事業「納税猶予」とは、承継時に一定の手続きをすることで自社株式(発行済株式)の2/3のうち、80%は納税猶予を受けられるという制度です。
このケースでは、顧問税理士がいたにもかかわらず、長年放置されていた株式評価をやり直して長男の自社株の持ち分に納税猶予を適用したところ、4億5000万円だった自社株評価額を半額以下の2億1000万円まで下げることができました。その結果、相続税額は5000万円に下がり、納税のめどをつけることができたのです。