いまやギャンブルの枠を超え、多くの人々を魅了する競馬。その華やかな舞台で躍動する競走馬たちを支えるのは、数多くのプロフェッショナルたちです。そのなかでも、馬を安全かつ確実にレース地まで送り届ける「馬匹(ばひつ)輸送」という仕事は、縁の下の力持ちとして重要な役割を担っています。本稿では、白川典人氏の『バックステージの走者 競走馬を運ぶプロフェッショナルの使命』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋・再編集し、馬匹輸送の難しさとやりがいについて解説していきます。

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重圧にまさるやりがいとは

ドライバーは常にこうした重圧と闘いながら、競走馬の輸送を行っています。これは技術とは別の能力が要求されることになります。例えば運転技術は、その習得のスピードに早い、遅いの個人差があっても、努力と練習の積み重ねで徐々に身につけることができます。

 

一方、重圧に耐える精神力は本人の性格によるところが大きく、慣れるまでに時間がかかる人もいます。新人ドライバーの中には、重圧に耐えられずに辞めてしまう人もいます。辞めるまではいかなくても、ストレスで体調を崩したり眠れなくなったりする人もいます。

 

輸送中は交代でドライバーを務めるため、休む人は自分の運転のときに支障が出ないようにしっかり休まなければなりません。しかし、高価な馬を積んでいると意識すると、馬の様子が気になって眠れなくなるのです。

 

そのような苦労をする一方で、馬匹輸送では、難しい仕事に取り組む精神的な見返りとして、解放感、社内外の関係者からの評価、そして自分の成長を得ることができます。解放感は、輸送する馬をすべて送り届けたときに得られる心理的なご褒美のようなものです。1頭でも馬が乗っているときと、すべての馬を届け、空車になったときとでは心理的な負担がまったく異なります。

 

輸送した馬が数十時間ぶりに外に出て喜ぶように、ドライバーも同じくらい大きな解放感に浸ることができます。この感覚は私にもよく分かります。今は経営に集中していますが、私自身入社から数年間はドライバーを務めていたため、任務を無事に終えたときの大きな安堵と解放感を幾度となく経験しました。

 

また外部からの評価もドライバーにとって大きな励みとなります。例えば、依頼者である馬主や牧場から「無事に届けてくれてありがとう」「次もよろしく」などと言われることです。輸送の質とレース結果の良し悪しには一定の因果関係があるという研究結果もあります。

 

輸送でストレスがかかると、ストレスホルモンの増加で免疫機能が低下したり消化器系に影響を及ぼしたりすることがあり、レース時のパフォーマンスに悪影響を及ぼす可能性があります。逆に、輸送の質が高ければ馬が良い成績を出す可能性が高まるとも考えられます。自分が運んだ馬がレースで勝ったとしたら、それは良い輸送ができた結果ともいえると思います。

 

輸送の質が評価されれば、実力馬や人気の馬の輸送を頼まれるケースが増えます。会社としてもリピーターの獲得はありがたいことですし、ドライバーにとっても自分の仕事が認められたことを意味し、仕事のやりがいや価値を感じるポイントの一つになります。

 

さらにドライバーとしての成長は、専門的な技術や知識を習得し、運転や馬の扱いがうまくなることです。最初は誰でも初心者で、小さなミスをするものです。しかし、真剣に仕事と向き合い続ければ、経験が増えるほどミスは減り、自分のスキルが上がっていることを実感しやすくなります。

 

また、輸送状況はその都度異なり、運ぶ馬も一頭一頭違うため、馬匹輸送の現場ではさまざまなトラブルが起きます。マニュアルでは対応できず、「これ」という正解がないトラブルに対して、ドライバーはその時々の状況に応じた最善の解決策を求められます。

 

このような難しさがあるからこそ、無事にトラブルに対処できたときには、それがドライバーとしての自信を高めることにつながります。さまざまな重責や重圧にもまさるこうしたやりがいが感じられれば、プロの馬匹輸送ドライバーとして自分の価値を高めていくことができるのだと思います。

 

 

白川 典人

大江運送株式会社

代表取締役

 

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※本連載は、白川典人氏の著書『バックステージの走者 競走馬を運ぶプロフェッショナルの使命』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋・再編集したものです。

バックステージの走者 競走馬を運ぶプロフェッショナルの使命

バックステージの走者 競走馬を運ぶプロフェッショナルの使命

白川 典人

幻冬舎メディアコンサルティング

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