(※写真はイメージです/PIXTA)

アメリカでは、2023年以降、銀行の資金繰り難に際し、米連邦準備制度理事会(FRB)が多額の融資をすることで救済する「バンク・ターム・ファンディング・プログラム」を実施。このプログラムの融資返済期日が2025年3月に迫っています。しかし、実際のところ、プログラムにより銀行の経営健全化が進んだわけではない、とフィデリティ・インスティテュート主席研究員でマクロストラテジストの重見吉徳氏はいいます。詳しく見ていきましょう。

補足③ FRBがBTFPを始めた背景

以上を要約すると、①(与信機能と支店網を持つ)米銀は、「預金流出」の見合いで含み損のある「保有債券の売却」を迫られる、②(さしたる融資先も支店網を持たない)外銀は、債券価格の下落でレポを続けられず、有価証券の投資ポジションの解消を迫られる(=含み損のある「保有債券の売却」を迫られる)、といった事態に陥りました。

 

市場金利の上昇は金融引き締めですし、ほかにも、銀行による米国債の投げ売りは海外中銀など、他の米国債保有主体による投げ売りを誘う可能性があります。もちろん、預金の流出は「取り付け」ですから、銀行の与信機能を壊してしまいます。

 

こうした事態を避けるために、FRBはBTFPを始めました。これはFRBが銀行が保有する米国債や政府機関MBSを担保に、額面分の資金を貸し付けるプログラムです。言い換えれば、銀行は、(MMFや政府系住宅機関などではなく)FRBを相手にレポを行い、資金を借り入れるプログラムです。

 

これにより、まず、①米銀は、含み損のある有価証券を売却せずとも、その有価証券を担保にFRBから資金を借り、これを預金の流出に充てられるようになりました。また、②外銀は、同プログラムが時価ではなく、額面で資金を貸し付けることで、レポ借り入れによる有価証券の投資ポジションを(おおむね)継続することができました。

 

先の例で使用した数値を用いると、時価が8億ドルに下がった米国債を担保に、外銀がFRBから10億ドルを借入することができれば(→額面=簿価と仮定)、その10億ドルでもって、借り入れ先である米銀やMMFには返済することができ、今度は、FRBを相手にレポを繰り返すことで、有価証券の投資ポジションを維持できます。

 

また、個別の米銀についても、たとえば、①住宅ローン貸出債権を売却して得た準備預金や、②財務省が社会保障支出などで個人の預金口座にクレジットした預金(→その見合いは準備預金となる)を超える金額の有価証券に投資をしている場合には、他行・MMF・政府系住宅機関などからのホールセール・ファンディングで有価証券を購入しているために、BTFPの額面融資は外銀が得たのと同じ恩恵を得ることができたはずです。

 

繰り返すと、近いうちに、銀行は再び、資金繰りに窮する可能性があります。メイン・シナリオは「FRBによる救済」(=同プログラムの延長)ですが、救済のタイミングによっては、金融市場に短期的な動揺が走るでしょう。

 

 

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重見 吉徳

フィデリティ・インスティテュート

首席研究員/マクロストラテジスト

 

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