補足② 銀行がドルの資金繰りに窮した背景
銀行が保有債券に多額の含み損を抱えるようになったあと、一部の中小銀行からは、(さまざまな理由で他行やMMFなどに)預金が流出しました。
当初、それらの中小銀行は、預金の流出(=負債の減少)を、他行やMMF、政府系住宅機関などからの借り入れ(=フェデラルファンドやレポ(後述)での借り入れ;ホールセール・ファンディングと呼ばれます;負債の増加)でもって穴埋めしたとみられます。
しかし、預金の流出(=負債の減少)が、「他行やMMF、政府系住宅機関などからの与信枠の限度」を超える規模になると、資産の売却で対応せざるを得ません。
そうしたときに、換金可能な資産(=流動性の高い資産)は有価証券です。結果として、銀行は、預金の引き出しに充てるために、(含み損を抱える)有価証券を売却し、大幅な損失を計上することになりました。たとえば、もともとは時価10億ドルで購入した米国債が、金利の大幅上昇によって、時価8億ドルの価値しか持たなくなれば、これを全額売却すると、2億ドルの売却損が生じます。
大幅な損失は、資本の大幅な減少です。これらが事業継続への懸念となって、さらなる預金の流出、そして経営破たんにつながりました。
以上は預金網をも持つ、米銀の話です。
他方で、さしたる融資先も預金を集める支店網も持たない外国銀行はたいてい、手持ちの自国通貨や、買い入れる有価証券を担保に入れること(=レポ)で、ドルを借りて有価証券に投資を行います。たとえば、ある外国銀行が証券会社から10億ドルの米国債を買うとします。当然ながら、その外銀は(証券会社に対して)10億ドルの支払いが必要になります。
このとき、その外銀は(外銀ゆえに)ドルをほとんど持っていません。そこで、買い入れる10億ドルの米国債を即座に(ドルが潤沢なMMFや米銀などに)担保として差し入れることで、(MMFや米銀から)10億ドルを借りてきて(→ヘアカットは捨象)、その10億ドルの買い入れ決済に充てます(=証券会社に支払います)。
すなわち、レポは住宅購入に似ています。我々のほとんどは、家を買うときに多額のお金はありません。このとき我々は、買う家を担保に入れることで、家を持つことができますし、居住というサービスを得ることができます。同じことを有価証券で行えば、有価証券を保有/有価証券に投資できます。
話を続けると、レポの期間は1日や1週間、1ヵ月、3ヵ月などであり、それらの満期が来たときには、その外銀はいったんは(米銀やMMFなどに)10億ドルを返済しなければなりません。
レポ借り入れが満期を迎えるときに、その外銀がまだ、(資産サイドにある)10億ドルの米国債を保有し続けたい、再び、その10億ドルの米国債を担保に入れることで、10億ドルを借り、その10億ドルで、当初のレポ借り入れの満期10億ドルを支払うことで、投資のポジションを維持します。すなわち、同じレポ借り入れの作業を繰り返すということです。
しかし、金利上昇で米国債の時価が8億ドルに目減りするとどうなるでしょうか。たとえ、米国債の時価が8億ドルに下落しようとも、外銀は、レポの満期で10億ドルを返済しなければなりません。
再び、同じ米国債を担保に入れるとしても(時価である)8億ドルしか借りることができず、それで米国債の投資ポジションは維持できますが、最初に借りた10億ドルを返済するために、(差し引き)2億ドルをどこかから用立ててくる必要があります。これは「信用取引の追い証」と同じ状況です。
こうなると外銀は資金繰りに窮しますし、レポによる借入=投資のポジションの縮小を迫られます。それは、保有有価証券の投げ売りと同じことです(→実際には、たとえば、レポの期間が1週間で、その間に時価が大きく動く場合には、日々、追加の資金や債券などのやりとりをして=「値洗い」、満期時に取り立てができないといった事態を防ぐようにします)。