役所に死亡届を出す=口座凍結になる?
結論からいうと、市町村役場に死亡届を提出しただけでは、口座は凍結されません。というのも、行政機関である市町村役場と民間の金融機関は、決して情報がリンクしているわけではないからです。
行政機関に死亡届を提出すれば戸籍には「死亡」という記載がされますが、だからといって、口座をストップするよう行政機関から各金融機関に連絡することもありません。
口座凍結が行われるタイミングとは
金融機関に対して相続発生の連絡をしたり、相続届を提出したりなどをしない限りは、そもそも口座は凍結される事態にはならないとされています。
ただし、金融機関の担当者が葬儀や新聞の訃報欄などから口座名義人が死亡した事実を知った場合には、凍結されるケースもあります。
例えば、地元でよく知られた地主や大きな預貯金を持った人などが亡くなったときなどは、金融機関の関係者が葬儀に参列することがあります。このような場合は口座名義人の死亡が把握されますので、相続人側から手続きを取らずとも口座が凍結され、預貯金の払い戻しを受けられなくなることもあります。
とはいえ多くの人々には、このような心配はないと考えてよいでしょう。亡くなった途端に口座が凍結されたり、死亡届を提出しただけで凍結されたりということは、通常はありません。
口座凍結前に預貯金を引き出しても大丈夫?
次に、口座凍結前に預貯金を引き出してもよいのか?という問題です。これについては、お伝えしたいリスクが2点あります。
1つは、相続人の間でトラブルが発生する可能性がある点です。相続発生後の預貯金は、相続財産(遺産)に該当します。他の相続人に無断で引き出したうえに、そのお金を何に使ったのかわからなかったり(=使途不明)、あるいは相続人が自分自身のために消費したりなどすれば、遺産が目減りし、他の相続人とトラブルになる可能性があります。
2つめは、場合によっては「相続放棄」や「限定承認」を選べなくなる可能性がある点です。預貯金を引き出す行為は「遺産の処分」に該当し、これを行うと「みなし単純承認」となる可能性があります。プラスの財産を上回る債務(借金や未払金など)がある場合は、その債務を被ることになりかねません。
相続の方法は大きく3つあります。財産を無条件で受け取る「単純承認」は最も一般的な方法ですが、財産を一切受け取らない「相続放棄」や、相続した範囲で被相続人の債務を返済する「限定承認」もあります。しかし預貯金の引き出しなどの「財産の処分」に該当する行為をすると、いわゆる「みなし単純承認」となり、相続放棄や限定承認ができなくなる可能性があるのです。
あくまで「可能性がある」とする理由は、「葬儀費用のために預貯金を引き出した場合は単純承認にならない」とした判例などもあるからです。
とはいえ、判例があるということは、争いが発生したという証拠でもあります。ですから相続放棄や限定承認を検討している場合は、口座凍結前であっても引き出しを避けたほうが無難です。
どうしても預貯金を引き出したい場合の「制度」
口座凍結前に預貯金を勝手に引き出すと、相続人間のトラブルが発生したり、相続放棄や限定承認ができなくなったりする恐れがあります。しかし、どうしても引き出したい場合は、正式な制度である「遺産分割前の相続預金の払戻制度」を利用するとよいでしょう。
遺産分割前の相続預金の払戻制度は2019年7月1日に施行された制度で、引き出せる金額は【相続開始時の預貯金額 × 1/3 × 払戻しを行う相続人の法定続分】です。ただし、1つの金融機関から払い戻せる上限額は150万円までです。
本制度を使えば、他の相続人の承諾を得ずとも、法律で定められた範囲内で預貯金を引き出すことが可能です。
手続きの方法は金融機関ごとに若干異なりますが、主な必要書類は次のとおりです。
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<必要書類の例>
・被相続人の出生~死亡までの戸籍謄本
・相続人全員の戸籍謄本
・預貯金払戻しを受ける相続人の印鑑証明書
※金融機関ごとに若干異なりますので、詳しくは各金融機関にお問合せください。
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これらを用意したら、金融機関の指定フォーマット等に記入し、提出していくという流れになります。上記書類はいずれも、遺産分割前の相続預金の払戻制度のみならず、さまざまな相続手続きにおいても必要な書類です。
以上、今回は相続実務のなかでよく受ける質問を基に解説しました。本稿がお役に立てば幸いです。
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<まとめ>
●死亡届を出しても、基本的に口座凍結には繋がらない。
●凍結前に預貯金を引き出す場合は、相続人全員に話を通したうえで行うか、もしくは法定された預貯金の払戻制度を利用するという方法がおすすめ。
●口座凍結前の預貯金の引き出しは「みなし単純承認」となり、相続放棄や限定承認ができなくなる可能性があるので要注意。
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佐伯 知哉
司法書士法人さえき事務所 所長
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