シニアの関心高まる債券投資、第一選択肢となるのは…
最近の長期金利の上昇を考えると、国内債券に投資をされるシニア世代の方々も増えてくるでしょう。たとえば、10年の国債の利率が1%台となると、消費者物価指数は実態よりおおむね1%程度高く計算される傾向(上方バイアス)があるため、事実上、インフレ目標の2%程度のインフレには負けない資産運用が債券投資で可能となります。
ただし、シニア世代はその消費の内容から消費者物価指数以上の影響を大きく受けることもわかっていますので、やはり、長期金利が2%程度になるまで国内債券での運用は避けたいところです。
しかし、長期的なインフレ率の予測として、物価連動国債の価格から算出される「ブレーク・イーブン・インフレ率」という指標があり、現在、この値は約1.3%です(2024年10月17日時点)から、国内債券投資を考えはじめる時期かもしれません。
債券の価格は、金利が上昇すると新しく発行される債券の利率が高くなり、現在投資を行っている債券は相対的に利率が低く、リターンの低い債券となり、債券市場での価格が下落することになります。
そこで金利変動の影響を受けない債券投資として、期間10年の変動金利型個人向け国債を活用することが考えられます。この個人向け国債は最低の利率が0.05%に保証された変動金利型の国債です。通常の国債は固定金利ですが、これを「金利スワップ」という短期と長期の円の金利を交換する金融技術を用いて半年毎に金利が変わるような商品となっています。
金利スワップ取引はスワップレートと呼ばれるレートにより市場で取引されています。そのレートが個人向け国債の場合は基準金利とする新発の10年国債の利回りに0.66をかけて算出することとし、日々変動するのではなく、固定しています。現在(11月債)の個人向け国債の変動型の利率は0.65%(税引き後0.5179525%)です。長期金利、つまり期間10年の国債の利回りが上昇すればそれに連動して個人向け国債の変動金利も上昇してゆきます。
長期金利の上昇の見込みについては、政府は、我が国の「全要素生産性」の向上の程度に応じて1.4~3.4%になると試算しています(内閣府「中長期の経済財政に関する試算」2024年7月)。全要素生産性とは、労働や機械設備、原材料投入などすべての要素を考慮した生産性の見方で、過去40年の実績は年率1.1%程度です。
個人向け国債の5年物の固定金利型による「ラダー運用」もアリ
次に、個人向け国債の5年物の固定金利型による「ラダー運用」という手法があります。これは、短期債から長期債まで、満期日(償還日)が異なる債券に同額ずつ投資する手法です。
たとえば、1,000万円を運用するのであれば、5年間に分けて200万円ずつ期間5年の固定金利型個人向け国債を購入し、最初に購入した国債の満期日が来たら、また、同じ5年物の固定金利型の個人向け国債を購入することを繰り返す手法です。
この手法は簡単ですが、金利変動リスクの軽減、平均利回りの安定化、定期的な現金化等のメリットがあります。特にシニア世代の方々の場合、現金化が自分の意思決定によらず、自動的にできる点が大きいでしょう。
期間5年の国債の利回りは、通常は、短期金利と10年の国債の利回りの中間値よりやや高くなる傾向があり、現在(11月債)の個人向け国債の5年の固定金利型の利率は、0.60%(税引き後(0.4781100%))です。
個人向け国債は、発行後1年経過すると、直近2回分の利子相当額を支払えば元本割れなく解約できます。これは、「プットオプション」という高度な金融技術が付けられていることと同じであり、中途解約の場合の損失が限定されることになります。
そこで、予想外の金利の上昇があれば、5年の満期を待たずに売却して、新しい個人向け国債を購入できます。これは変動金利型も同様であり、シニア世代の方々が活用したい債券投資でしょう。
藤波 大三郎
中央大学商学部 兼任講師