(画像はイメージです/PIXTA)

シニア世代は資産運用であまり冒険できないことから、主に「ミドルリスク・ミドルリターン」での運用が推奨されています。その場合、どの程度の収益性を目標とすることが妥当だといえるのでしょうか? さまざまな分析結果から、目指すべき数値が見えてきました。元銀行員で大学教授のキャリアを持ち、いまも教壇に立つFPが解説します。

シニアが目指すべき「ミドルリスク・ミドルリターン」の収益性は?

シニア世代の方々はハイリスク・ハイリターンの運用は少額とし、主としてミドルリスク・ミドルリターンを目指すことが大切ですが、そうした運用でどの程度の収益性が予想されるのか考えてみます。

 

内外の債券、株式に分散投資を行うことを前提とすると、シニア世代の方々の目指す収益性は、その時々の銀行の1年定期預金金利よりもプラス3%程度となるのではと思います。現在は、1年の定期預金の利率は0.125%程度となっていますので、3%程度の収益性を目指す運用となります。

 

これは、株式や債券といった元本割れのあるリスク資産での運用としては少し小さい値ではないかと思われるかもしれません。しかし、長期の統計データをベースに検討し、運用に用いる投資信託にかかる費用を考えますと、1年定期預金金利プラス3%程度という収益が内外の債券や株式に分散投資をして得られる場合の長期的な平均値でしょう。

 

実際、1980年から2020年までのデータでは、内外の債券株式の4資産に均等投資を行った場合の平均リターンは6%であり、1年から2年未満の定期預金の平均リターンは2%であったという報告があります(臼杵政治「「長期投資」って何年間?-資産・投資期間ごとの元本毀損確率」ニッセイ基礎研究所、2021年)。

 

これから、1年定期預金金利と内外株式債券への4資産均等投資による資産運用との差は3.5%前後と考えられます。

 

また、シニア世代の方々に身近な公的年金の資産運用ではバブル崩壊後の過去25年のデータから得た値を「ブラック・リッターマン法」と呼ばれる専門的な計算も用いて、それぞれのリスク・プレミアム、つまりリスクに対する報酬、見返りを計算し、短期金利への債券、株式へ投資から得られる見返り部分、リスクプレミアムは、概ね次の通りとしています。

 

なお、ブラック・リッターマン法とは各資産の収益性を過去の実績ではなく、リスク(標準偏差)と資産配分の割合から計算する方法のことです。

 

[図表]各資産のリスクプレミアム

まずは「小さな目標」を持つところから

これらから内外債券、株式への均等投資をした場合は、短期金利+3.4%がリターンの期待値、つまり予想の平均値となります。そして短期金利は0.6%と予想しているので、結局4%のリターンを計画していることになります(年金積立金管理運用独立行政法人「基本ポートフォリオの変更について」2020年)。

 

なお、現在の短期金利は0.42%(2024年12月11日時点の期間1年の国庫短期証券)となっています。この短期金利の長期的な平均値は、日本の達成可能な実質経済成長率である潜在成長率とインフレ率の合計になると考えられています。また、1年定期預金金利と期間1年の短期金利の差は、今後も大きな差はできにくいのではないかと思います。

 

しかし、資産運用に用いる投資信託の費用の点があります。新NISAのつみたて投資枠の対象となる内外のインデックス運用の投資信託の残高に比例する費用の平均値は0.32%となっており、毎年、残高の0.32%が運用の成果から差し引かれます(金融庁「つみたて投資枠対象商品の概要について」2024年10月)。また、つみたて投資枠対象商品は、購入時に支払う販売手数料がゼロとなっています(ETFを除く)。

 

そうすると、短期金利、すなわち1年定期預金金利+3%程度(3.4%-0.32%)程度を目指すことがシニアの方々の目標として妥当であり、これを新NISAの少額投資非課税制度で運用すれば、リターンの全額が手取りとなります。

 

シニアの方々は堅実な資産運用が求められる世代ですから、まず、こうした小さな目標を持つことをお勧めします。そして、ゆとりのある方は、少量を海外株式への分散投資のような運用により、表にあるような高い収益性(短期金利プラス6.6%程度)を目指すという二段構えの目標を設定されてはいかがでしょうか。

 

 

藤波 大三郎
中央大学商学部 兼任講師

 

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