風土から導く酒造のコンセプト
そんななか、社長が出会ったのがクリエイティブディレクター、デザイナー、アーティストとして活躍する大地千登勢氏(C&代表)です。
大地氏が平戸の菓子店とのプロジェクトに携わっていたことで縁がつながり、福田酒造のブランディング・ディレクターを務めることになりました。その大地氏が福田酒造の酒づくりにおける背景として最も重視したのが、志々伎湾を中心とした平戸島南部の風土です。
大地氏は、その背景を探るために自ら山に登り、海に潜り、まちを歩き、土地の人に話を聞くなど、雄大な自然と歴史文化が織りなす風土について体当たりで調べていきました。
そうした大地氏の調査によって見いだされた、風土の価値と酒づくりへの思いのつながりを表したのが「水天一碧、白縹はなだの波の花。縹色の海は人と神を繋ぎ、ここ志々伎に悠久の酒を醸す」というコンセプトです。
この一節にある「水天一碧」とは、海と空とが青々として一続きになっている様子を表し、「縹色」とは日本古来伝わる明るい藍色で、まさに志々伎湾の風景そのものを描写しています。雄大な自然や神秘性、ゆるやかな時の流れなど、この地で300年間行われてきた福田酒造の酒づくりにとってかけがえのない風土の価値が言語化されました。
そのコンセプトを視覚化するために、大地氏と同じプロジェクトに携わるオランダ人写真家が現地に長期滞在し、時間をかけて福田酒造の原風景を写真に収めていきました。
さらに大地氏は、風土と酒づくりが結び付く象徴として、福田酒造のロゴマークをブラッシュアップしました。新しいロゴマークは、風土のシンボルである霊峰、志々伎山の稜線と、大きく羽ばたく鶴のシルエットを重ねたユニークなデザインです。
福田酒造にはその昔に鶴が舞い降りたという伝説があり、今でもその場所を神社として祀っています。先祖が大切にした鶴の姿に「いつか福田酒造の名が鶴のように大空へ羽ばたき、志々伎山に見守られ、世界へ羽ばたくように」という思いを込めました。
サイト訪問者の価値になるために
ここまで大地氏が行った平戸島南部の調査、コンセプトメイキング、撮影、ロゴマーク制作をもとに、私たちはコーポレートサイト構築を手掛けました。大地氏が「調べる」「磨く」を行い、私たちが「魅せる」を行い、顧客接点をつくるという協業体制を取りました。
私たちは、大地氏によって磨かれたコンセプトが、コーポレートサイトを通してサイト訪問者の価値になるためにはどうすべきかを考えました。
酒蔵のコーポレートサイトには消費者だけでなく、卸売企業や酒販店・飲食店、メディア関係者、採用希望者、地方自治体や事業支援者、平戸を訪れる旅行者など、多様なステークホルダーが訪問するため、それぞれの属性や目的、ニーズを研究することが重要です。
そのステークホルダーたちが期待する価値と、福田酒造が伝えたいコンセプトをつなげるためのコンテンツとデザイン設計を行います。もちろん、表現の軸になるのはオランダ人写真家が撮影した美しい風景写真ですが、福田酒造の物語、酒づくりの哲学、地域との共存共栄を目指したビジョンも明確に記すことにしました。
最終的に新しいコーポレートサイトは、平戸島南部の自然が眼前に広がるようなデザインでサイト訪問者を魅了し、そのうえで社長のメッセージをしっかりと伝えることで、地域の風土に酒蔵の強みと価値を活かした、唯一無二のイメージを創出するものになりました。福田酒造のルーツ・ブランディングを凝縮した、新しい「魅せる」顧客接点の完成です。
株式会社第一紙行 ブランディング事業部