(※写真はイメージです/PIXTA)

潤沢な資産のある家に生まれれば、仕事をせずとも不自由なく暮らしていけるのに、と一度は考えたことがある人も多いのではないでしょうか? しかし、そうたやすくもいかないのが、人生なのかもしれません。今回、資産家の長男として暮らす、現在50代の男性の身に起こった出来事を、CFPでFP事務所MIRAI代表の山﨑裕佳子氏が解説します。

“俺、作家目指すわ!”…マサキさんの衝撃発言のワケ

息子のマサキさんはというと、医者になるプレッシャーから解放されたこともあり、親からお小遣いをもらいながら、大学生活を存分に謳歌しました。経済的自立への意識が低かったのでしょう。就職先を決めないまま卒業を迎えてしまいます。

 

これにはさすがのハジメさんも、黙ってはいられなかったようです。「俺たちがこれまでどんな思いでおまえを育ててきたと思ってるんだ!」と、社会人として自立していかなければならないことを諭したと言います。とはいえ、完全には突き放せないのが親心です。

 

結局、ハジメさんが知り合いのツテを頼り、マサキさんはハジメさんの知人が経営する会社に雇ってもらうことになりました。

 

ところが、大学時代アルバイトもほとんどしていなかったマサキさんは、「働く」ということを甘く考えていたようです。上司や先輩からの指導に不満を募らせ、不貞腐れた態度で業務を選ぶようになりました。会社側の配慮で配置転換をしたものの、今度は「仕事が自分に合わない」と言い出す始末。結局、30歳のときに会社を辞めてしまいました。

 

それからは、定職に就かず部屋に籠る日々が続きました。見かねた父が声をかけたところ、マサキさんは言いました。「俺さ、小説を書いてみたくて。作家を目指すわ!」

 

傍から見るとただの引きこもりのように見えますが、日中はパソコンに向かい、小説らしきものを書く生活を送るようになったマサキさん。夕方になると、父の保有するランボルギーニに乗って、頻繁にどこかへ出かけるようになりました。

 

実は、インターネットをきっかけに地下アイドルにハマり、「推し活」に精を出しているようです。ある日ファンレターを渡したところ、後日握手会で「マサキさんの文章、ステキ! 小説家に向いていると思う!」と言われたことがきっかけで、マサキさんは小説家を志すようになったそうです。

父、ハジメさんの心配事

ハジメさんはそんな息子の生活態度を苦々しく思い続けていますが、すでにいい大人となっている息子に説教をする気にもなれませんでした。息子との衝突を避けたい気持ちもあり、なかば諦めの境地です。

 

ハジメさんは75歳のときにクリニックを閉院しています。その後もマサキさんは親の脛をかじり続けたまま、時々、小遣いをせびり、53歳の現在に至るまで実家暮らしを続けています。

 

実は、ハジメさんにはマサキさんのほかに娘がいます。娘のミナコさん(仮名:49歳)です。ミナコさんは、26歳のときに友人の紹介で知り合った会社員の男性と結婚し、2人の子供をもうけました。現在は一家4人、他県で暮らしています。

 

お盆や正月には娘家族が帰省するのが恒例行事となっていて、孫たちに会うことがハジメさんの老後の楽しみのひとつになっています。身の丈に合った堅実な生活をしているようで、娘に対する心配は何もありません。

 

つまり、問題は息子のマサキさんなのです。ハジメさんの資産は不動産を含めると恐らく1億5千万円くらいになります。妻は2年前に他界しています。

 

ハジメさんの年金は公的年金と医師年金を合わせて月25万円ですので、1人暮らしであれば十分暮らしていけます。しかし、息子が一向に自立してくれないばかりか、度々お金の無心をされることが、引退後のハジメさんの負担となっています。

 

遅まきながら、こんな生活をさせていてはマサキのためにならない、と考えたそうです。また、真面目に分相応に暮らしている娘のミナコさんにも資産を等分に相続する権利があるのに、息子にばかりお金を使っていることも気がかりでした。

マサキさんの身に起きた「想定外の出来事」

ある日の夕方、想定外の出来事がマサキさんを襲います。いつものように推し活に出かけるための軍資金を出金しようとATMに向かいますが、預かっている父名義のキャッシュカードが使えません。「暗証番号を間違えたわけではないし、おかしいな……」と思いましたが、すでに窓口は閉まっていたため、翌日、改めて銀行に問い合わせました。そこで、銀行の担当者から想定外の一言が。

 

「大変恐縮ですが、こちらのカードはお使いになれません」。

 

実はハジメさん、妻が亡くなった直後くらいから少しずつ認知機能の衰えが見られ始めます。聡明なハジメさんはそのことを自覚しており、80歳の誕生日を迎えた後、介護付き有料老人ホームに入居することに決めたそうです。立派な持ち家があり、無職同然の息子もいるため、自宅介護という選択肢がないわけではありませんでしたが、本人の希望により、早めに施設での生活を選択したそうです。

 

そして、同時期に成年後見制度を利用することに決めていたのです。

 

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