(※写真はイメージです/PIXTA)

潤沢な資産のある家に生まれれば、仕事をせずとも不自由なく暮らしていけるのに、と一度は考えたことがある人も多いのではないでしょうか? しかし、そうたやすくもいかないのが、人生なのかもしれません。今回、資産家の長男として暮らす、現在50代の男性の身に起こった出来事を、CFPでFP事務所MIRAI代表の山﨑裕佳子氏が解説します。

ハジメさんが利用した「成年後見制度」とは

成年後見制度は、認知症をはじめ、知的障害、精神障害などで判断能力が不十分な人に起こり得る不利益から本人を守るための制度です。

 

成年後見制度は次の2つに大別されます。

 

1.法定後見制度

すでに判断力が低下した人を対象にした制度です。本人、配偶者、四親等内の親族、市区町村長などの申し立てにより、家庭裁判所が選任した成年後見人によって本人の財産管理や身上管理を行います。本人の判断力によって、「後見」「補佐」「補助」の3つの分類があり、分類により手助けできる範囲が異なります。

 

2.任意後見制度

「任意後見制度」とは、本人に十分な判断能力があるうちに信頼できる人と任意後見契約を結ぶ制度です。

 

公証役場で公正証書を作成し法務局に登記する必要があります。本人の判断能力に不安が出てきた際に、任意後見監督人を家庭裁判所が選任します。これにより任意後見契約の効力が生じ、任意後見人が、法律行為を本人に代わり行います。なお、任意後見人の権限は任意後見契約の範囲内に限られます。

 

どちらの場合も後見人になれる人は、親族の他、弁護士、司法書士など法律の専門家、また、福祉法人などです。

 

ハジメさんは、これ以上自分の資産を息子のマサキさんに使い込まれることを危惧し、あらかじめ、任意後見制度で知人の弁護士と財産管理に関する任意後見契約を結んでいたのです。

 

老人ホームに入居して1年半が経過した頃、ハジメさんの認知機能が低下したため任意後見が開始されました。そのため、ハジメさん名義の預貯金を勝手に引き出すことはできない状態となっていたのです。

 

ハジメさんが亡くなり相続が開始されれば、いずれマサキさんにも十分な遺産が入るでしょう。しかし、当面はこれまでのように自由になる資金はありません。

 

まだ十分に働くことができるマサキさんです。考えを改め、親の資産に頼らず身の丈にあった暮らしをしていってくれることが父ハジメさんの最後の願いです。

子どもの自立のための金融教育は「家庭」が基本

日本人の金融リテラシーは低いといわれており、ハジメさんやマサキさんの世代は金融教育を受けたことがない人が多いようです。また、以前は家庭内でお金のことを口にするのはよくないという思い込みもありました。

 

しかし、現在、日本において金融経済教育の重要性は高まっており、2022年4月からは中学・高校でも金融教育が始まっています。とはいえ、金融教育の基本はあくまで家庭です。たとえ親に難しい金融知識がなくとも、子どもの成長と理解力に応じて、家計管理や生活設計の大切さを教えるよう努めたいものです。子どもが経済的に自立できない場合、最後に自分の老後を脅かすことにもなりかねません。

 

 

山﨑裕佳子

FP事務所MIRAI

代表

 

<参考・出典>
※1 内閣府「令和6年版 高齢社会白書(全文)(PDF版)
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2024/zenbun/pdf/1s2s_04.pdf
 

 

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