いまのシニア世代が子どものころ、定期金利は5~6%だったが…
金利のない時代から金利のある時代への移行が始まりました。円安や資源高を契機にインフレが進み、デフレマインドが消え、シニア世代の方々は、インフレ対策として金利の知識が必要な時代となりつつあります。
シニア世代の方々は子どもの頃の高度経済成長時代、お年玉を貯める定期預金の金利が5~6%であったことを憶えているかもしれません。しかし、1960年代の名目GDP成長率は約16%で、実質では10%程度、賃金は10%程度で増えました(内閣府「国民経済計算」、厚生労働省 「毎月勤労統計調査」等より筆者試算)。これに比べて当時の定期預金の金利は、大変低いものでした。当時は定期預金の金利水準は低めに規制されており、いわゆる「人為的低金利政策」がとられていました。
通常、1年の短期金利はその国の経済成長率の水準と一致することで経済のバランスが取れます。したがって、金利のある時代への移行は、経済成長と賃金のベースアップが起こる時代への移行を意味します。
長期的には、物価の変動を含まない実質金利が「潜在成長率」に一致することで経済の均衡が保たれます。潜在成長率とは、国の経済がどれだけ成長できるかを示すものです。
過去20年(2023年度までの20年)の名目GDP成長率の平均値は0.66%であり、物価の変動を除いた実質GDP成長率は0.62%でした(筆者試算)。
この成長率が経済のバランスのとれたものであれば、短期金利も0.66%程度となり、賃金も毎年0.66%程度のベースアップとなったはずです。しかし、実際はさまざまな要因でそうはなりませんでした。
政府、インフレ率を0.9~2.0%と予想→では、短期金利は?
政府は、わが国の長期的な潜在成長率を「全要素生産性」と呼ばれる技術革新や効率化などによる生産性上昇率の水準に応じて、0.4~1.8%と推定しています(内閣府「中長期の経済財政に関する試算」2024年7月)。
短期金利は長期的には先述の潜在成長率とインフレ率の合計値となりますが、政府はインフレ率を0.9~2.0%と予想していますので、短期金利は1.3~3.8%となることが見込まれます。短期金利を潜在成長率とインフレ率の合計値と考えるのは、「フィッシャー方程式」と呼ばれる考え方に基づいており、日本でもおおむね成立することが確かめられています。
一方、名目DGP成長率は、0.7~3.2%と予想されており、その多くを占める個人消費の裏付けとなる賃金上昇率は1.0~3.3%の予想となっています。
次の図を見てください。この図は、名目GDP成長率、短期金利、名目賃金上昇率の関係を示しています。これを見ると、金利のある時代は賃金が上がる時代であることがわかります。
つまり、長期的には名目GDP成長率と短期金利と名目賃金上昇率は概ね同水準となるのであり、金利のある時代とは賃金上昇のある時代です。
これからは、現役世代は住宅ローンの借入金利においては金利上昇のデメリットがあります。しかし、表からわかる通り、賃金も上昇するので金利上昇の負担を軽くできるでしょう。
一方、シニア世代の方々は賃金上昇のメリットは受けないのですが、賃金の上昇を起こす要因となる「経済成長による金利の上昇」は、資産運用においてシニア世代の方々の大きなメリットとなります。
銀行の定期預金金利があまり上がらない場合は、3年間の固定金利型個人向け国債で運用することで、より高い金利を得ることができます。また、経済成長率が高まると内外の債券、株式に分散投資を行う資産運用の収益性も高まりますので、シニア世代の方々もこうした資産運用に取り組んで金利のある時代のメリットを得てはいかがでしょうか。
経済成長にはマイルドなインフレが伴いますので、その対策としても金融資産の一部をこうした運用に振り向けることをお勧めします。
藤波 大三郎
中央大学商学部 兼任講師