今回は、不動産購入のための借入金の「利息」に関する裁判例を見ていきます。※本連載では、犬塚浩氏監修・共著『Q&A建築瑕疵損害賠償の実務 ―損害項目と賠償額の分析―』(創耕舎)より一部を抜粋し、建築瑕疵(欠陥)によって起きた裁判のうち、「契約費用関係」の判例を中心にご紹介します。

銀行からの借入利息は損害として認められるのか?

Q 購入資金を銀行から借り入れていた場合、借入利息分も損害に含まれるのでしょうか。また、売買代金の運用利益や建替える場合の請負代金の利息についてはどうでしょうか。

 

A 契約の効力が否定された場合、債務不履行責任または不法行為責任が認められた場合には借入金の利息も損害に含まれうる。ただし、否定した事例もあり、個々の事案において借入と債務不履行等との因果関係の有無を検討する必要がある。

 

売買代金の運用利益及び建物を再建築する際の請負代金の利息については否定された事例がある。

 

【肯定例】

銀行からの借入利息については損害として認められることがある。

 

①大阪高判平成23年10月14日判タ1400号116頁

山林の土砂埋立事業の許可申請に対し、手続的要件を具備していないとして不許可処分を行った市に対し、国家賠償責任を認め、民事訴訟法248条に基づき不許可処分がなければ負担することはなかったと認められる借入金利息相当額を認めた。

▶土地⇒借入金利息−請求額(2億2365万3750円)・認容額(1000万円)

 

②神戸地判平成9年9月8日判時1652号114頁

傾斜地に建築した鉄筋コンクリート造建物に発生した浸水現象につき、契約の目的を達成できない「隠れたる瑕疵」に該当するとして買主からの解除を認め、売買代金の返還額とともに借入利息分について請求額どおりの損害賠償を売主に対して命じた。ただし、売主の賠償義務の範囲は信頼利益の範囲に限るとして弁護士費用の請求を否定し、売主から注文を受けた施工業者(請負人)の買主に対する使用者責任については「積極的な加害意思がある」など特段の事情がない場合には賠償請求できないとした。

▶鉄筋コンクリート造建物⇒利息−請求額(5786万1405円)・認容額(5786万1405円)

 

③東京地判平成6年12月16日判タ891号139頁

地主から土地を借りてマンションを建築する計画が、借地人・保証人(事前求償権者)により破棄され、マンション建築計画が頓挫したという事案につき、マンション建築計画のパートナー(主債務者)から借地人(保証人)に対する損害賠償請求を認め、貸金により支払を余儀なくされた金額に対する利息について請求額416万4666円のうち349万1006円の賠償請求を認めた。

▶マンション⇒既払利息−請求額(416万4666円)・認容額(349万1006円)

因果関係がなく損額にあたらないとされた例とは?

【否定例】

銀行からの借入利息は因果関係がないとして損害にあたらないとされることがある(〈③東京地判H10・5・13〉及び〈⑤東京地判H6・1・24〉)。売買代金の運用利益(〈②東京高判H12・10・26〉)、建物を再建築する際の請負代金の利息(〈⑥東京地判H2・2・9〉)については否定されており、参考になる。

 

①東京地判平成24年2月8日判タ1388号216頁

特別地方公共団体が都市計画の情報提供のために作成した図面に高度地区表記の誤りがあったため、その表記を前提にマンション建築事業を計画し土地を購入した後に、同図面の誤りが判明したため同事業を断念した不動産業者の国家賠償請求を認めたが、表記が誤りであることを知っていれば土地を購入しなかったとはいえないこと、マンション建築を断念して同土地を売却したわけではないことから借入金金利(365万4050円)の損害は因果関係がないとして否定した。

▶土地⇒借入金金利−請求額(365万4050円)・認容額(0円)

 

②東京高判平成12年10月26日判時1739号53頁

がけ地を含む土地マンションの売買につき、不動産仲介業者が関係法令に基づく規制があること、利用が大幅に制限され、多額の擁壁工事費用が生じることも説明しなかった場合には、仲介業者の善管注意義務違反に基づく損害賠償責任を認めるも、売買代金の運用利益については損害として否定した。

▶土地⇒売買代金の運用益−請求額(3392万9041円)・認容額(0円)

 

③東京地判平成10年5月13日判時1666号85頁

売買の対象となった建物に瑕疵が存在したことにつき、仲介業者以外に仲介的役割を果たした銀行や税理士の告知義務違反に基づく買主に対する不法行為責任を認め、買主の賠償請求として印紙代相当額他を認容したが、銀行への既払利息については損害として否定した。

▶雑居ビル⇒既払利息−請求額(165万4518円)・認容額(0万円)

 

④横浜地判平成9年12月26日判タ977号87頁

建築主事の行政指導に従う姿勢を申請者である建築主が示している状況において、建築主事がしばらくの間建築確認申請の受理を留保しても行政庁に国家賠償法上の賠償義務はないとして、建築確認が遅れたことにより借入金の増大による利息など、損害賠償請求は否定された。

木造一戸建て⇒借入金増大による利息−請求額(2263万4000円)・認容額(0円)

 

東京地判平成6年1月24日判時1517号66頁

建築確認通知書が発行された後に契約を締結する等を取り決めた協定を結んだ事案につき、当事者の一方が契約の締結を拒否した場合には信義則違反として売主がリゾートマンション設計費用として支払った金額の8割の賠償義務を負うとしたが、金融機関からの借入れは設計費用の支払との間で相当因果関係がないとして、支払った利息を損害として否定した。

▶リゾートマンション⇒金融機関への支払利息−請求額(2億127万1497円)・認容額(0円)

 

⑥東京地判平成2年2月9日判時1365号71頁

仕事の目的物に瑕疵があることについては、請負契約の瑕疵担保責任を主張するボーリング場注文者に主張立証責任があり、不具合の主張だけでは不十分として、建物を再建築する際の請負代金の利息4592万2186円の賠償請求を否定した。

▶ボーリング場⇒利息−請求額(4592万2186円)・認容額(0円)

Q&A建築瑕疵損害賠償の実務  ―損害項目と賠償額の分析―

Q&A建築瑕疵損害賠償の実務 ―損害項目と賠償額の分析―

犬塚 浩 永 滋康 宮田 義晃 西浦 善彦 石橋 京士 堀岡 咲子

創耕舎

建築瑕疵の裁判例から重要なものを抽出し、その概要・損害賠償の可否・請求費目・具体的金額等を事案ごとに整理・分析し、住宅紛争処理の迅速かつ適切な解決・予防のために有益な書籍。

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