今回は、不動産の損害賠償金と「火災保険料」に関する裁判例を見ていきます。※本連載では、犬塚浩氏監修・共著『Q&A建築瑕疵損害賠償の実務 ―損害項目と賠償額の分析―』(創耕舎)より一部を抜粋し、建築瑕疵(欠陥)によって起きた裁判のうち、「契約費用関係」の判例を中心にご紹介します。

火災保険料が損害として認められる場合とは?

Q 火災保険料は損害金に含まれるのでしょうか。

 

A 契約の効力が否定された場合、債務不履行責任または不法行為責任が認められた場合、支払われた火災保険料は損害金に含まれる。

 

【肯定例】

損害賠償請求等が認められる場合、火災保険料は損害として認められている。

 

①神戸地尼崎支判平成25年10月28日判例秘書L06850609

マンション賃貸借契約において、家主が借主に居室内で自殺があったことを告げずに契約したことは説明義務違反であるとして、住宅保険料(2万6700円)等の損害賠償請求を認めた。

▶マンション⇒住宅保険料−請求額(2万6700円)・認容額(2万6700円)

 

②横浜地判平成24年1月31日判タ1389号155頁・判時2146号91頁

マンションの耐震強度が不足していた事案につき、建築確認を行った指定確認検査機関に対する損害賠償請求権を肯定し、火災保険料・地震保険料を損害として認めた。

▶マンション⇒火災保険料・地震保険料−請求額(不明)・認容額(不明)

 

③大阪地判平成20年5月20日判タ1291号279頁

居住目的の土地建物の売買契約において売主を仲介する仲介業者は、建物の物理的瑕疵によって居住目的が実現できない可能性があるとの情報を認識している場合には買主に対し積極的にその情報を告知すべきであり、これを怠った仲介業者には不法行為責任が認められるとして火災保険料等の支払を命じた。なお、買主から仲介の委託を受けていた会社の過失は被害者側の過失として斟酌すべきである等として公平の見地から損益相殺後の損害額の2割を過失相殺した。

▶土地建物⇒火災保険料−請求額(77万2800円)・認容額(不明)

 

④東京高判平成6年7月18日判時1518号19頁

売買の対象となった土地、一戸建て建物に関する建蔽率・容積率について誤った新聞広告がなされ、かつ契約締結時においても仲介業者から買主に対して誤った説明がなされた事案につき、買主の錯誤無効の主張が認められ、買主の売主に対する火災保険料(1万1250円)の(不当利得)返還請求が認められた。

▶一戸建て⇒火災保険料−請求額(1万1250円)・認容額(1万1250円)

「火災保険料」の請求が否定された例

【否定例】

損害賠償責任が認められない場合、火災保険料の請求は否定されている。

 

①横浜地判平成10年2月25日判時1642号117頁

建物賃借人が化学物質過敏症に罹患したとして賃借建物に新建材を使用したことは債務不履行にあたるとして、賃貸人に保険料等の損害賠償をした事案につき、賃貸人は化学物質過敏症の発症を予見し、対応することは期待不可能であるから過失はないとして請求を否定した。

▶賃借建物⇒家財保険料−請求額(9120円)・認容額(0円)

 

最判平成3年4月2日判時1386号91頁

借地権付き建物売買において、敷地部分である擁壁に建物倒壊の危険性のある場合でも、土地所有者である賃貸人が借地人に対して修繕義務を負担すべき対象である場合には、このような状況は建物売買の目的物の「隠れたる瑕疵」ではないとして、解除及び火災保険料などの賠償請求を否定した。

▶借地権付建物⇒契約の解除・火災保険料などの賠償請求−請求額(不明)・認容額(0円)

Q&A建築瑕疵損害賠償の実務  ―損害項目と賠償額の分析―

Q&A建築瑕疵損害賠償の実務 ―損害項目と賠償額の分析―

犬塚 浩 永 滋康 宮田 義晃 西浦 善彦 石橋 京士 堀岡 咲子

創耕舎

建築瑕疵の裁判例から重要なものを抽出し、その概要・損害賠償の可否・請求費目・具体的金額等を事案ごとに整理・分析し、住宅紛争処理の迅速かつ適切な解決・予防のために有益な書籍。

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