今回は、不動産の補修費用にかかる「消費税」等に関する裁判例を見ていきます。※本連載では、犬塚浩氏監修・共著『Q&A建築瑕疵損害賠償の実務 ―損害項目と賠償額の分析―』(創耕舎)より一部を抜粋し、建築瑕疵(欠陥)によって起きた裁判のうち、「契約費用関係」の判例を中心にご紹介します。

消費税、固定資産税等は損害として認められるのか?

Q 補修費用を請求する場合に、補修費用にかかる消費税も損害金に含まれるのでしょうか。また、錯誤無効が認められた場合、固定資産税相当額等は損害として認められるのでしょうか。

 

A 修補費用の損害賠償請求が認められる場合、消費税分も損害金に含まれる。契約の効力が否定された場合、既に支払っている固定資産税相当額等は損害として認められる。ただし、事案により固定資産税の負担は因果関係がないことを理由に損害として認められないことがある。

 

その他、暴力団関係団体事務所が存在することに関して仲介業者の説明義務違反が認められるのはあくまで仲介業者が暴力団関係段事務所の「存在を認識していた場合」とする否定例〈①東京地判H26・4・28〉は説明義務の範囲として参考となる。

 

【肯定例】

土地付建物の売買において損害額を「売買代金の範囲内」と限定した〈③千葉地松戸支判H6・8・25〉、違約金(損害賠償額の予定)の範囲の損害を認めた〈⑤東京地判H5・12・16〉は損害の認定について参考となる。

 

①大阪地判平成20年5月20日判タ1291号279頁

居住目的の土地建物の売買契約において売主を仲介する仲介業者は、建物の物理的瑕疵によって居住目的が実現できない可能性があるとの情報を認識している場合には買主に対し積極的にその情報を告知すべきであり、これを怠った仲介業者には不法行為責任が認められるとして固定資産税・都市計画税、不動産取得税等の支払を命じた。なお、買主から仲介の委託を受けていた会社の過失は被害者側の過失として斟酌すべきである等として公平の見地から損益相殺後の損害額の2割を過失相殺した。

▶土地建物⇒固定資産税・都市計画税−請求額(8万5165円)・認容額(不明)、不動産取得税−請求額(21万200円)・認容額(不明)

 

②福岡地判平成11年10月20日判時1709号77頁

施工業者が十分な地盤調査を行うことなく建築した木造一戸建て建物に沈下、ひび割れが発生したことにつき、施工業者の注文者に対する不法行為責任を認め、補修工事費用とともにその出損に伴う消費税についても通常生じる損害として5%の消費税額分(42万8025円)の請求を認めた。

▶木造一戸建て⇒消費税−請求額(42万8025円)・認容額(42万8025円)

 

③千葉地松戸支判平成6年8月25日判時1543号149頁

土地付建物の売買において土地の不等沈下による木造一戸建て建物の傾き(瑕疵)について売主の買主に対する瑕疵担保責任を認め、転売利益の賠償請求は否定するも、公平の見地から「売買代金(650万円)の範囲内」において補修費用のほか消費税(28万2600円)の損害を認めた。

▶木造一戸建て⇒消費税−請求額(28万2600円)・認容額(28万2600円)

 

④東京高判平成6年7月18日判時1518号19頁

売買の対象となった土地、一戸建て建物に関する建蔽率・容積率について誤った新聞広告がなされ、かつ契約締結時においても仲介業者から買主に対して誤った説明がなされた事案につき、買主の錯誤無効の主張が認められ、買主の売主に対する固定資産税分担金(7万6782円)の(不当利得)返還請求が認められた。

▶一戸建て⇒固定資産税分担金−請求額(7万6782円)・認容額(7万6782円)

 

⑤東京地判平成5年12月16日判タ849号210頁

転売目的の鉄筋コンクリート造マンション売買契約において建築基準法上の完了検査済証を交付することが予め特約として定められていたにもかかわらず交付できなかった事案につき、完了済検査証がない場合の不都合等も斟酌して買主からの解除請求を認めたが、違約金の定め(代金の20%)があり、この損害賠償額の予定の推定を覆す反証がないことから違約金以外の登録免許税と不動産取得税などの請求を否定し、固定資産税については解除の翌日以降の分についてのみ不当利得返還請求として認めた。

▶鉄筋コンクリート造マンション⇒登録免許税−請求額(300万2400円)・認容額(0円)、不動産取得税−請求額(117万7200円)・認容額(0円)、固定資産税−請求額(48万4700円)・認容額(40万2841円)

「固定資産税・都市計画税等」が損害として否定された例

【否定例】

固定資産税負担分は土地を所有していること自体に基づき発生・負担するものであるから因果関係がないとして損害として否定した〈③大阪高判H23・10・14〉、土地及び建物についての売買契約に関連する債務不履行責任・不法行為責任が発生する場合でも「土地を保有していることによって生じた負担」であるとして損害を認めなかった〈④東京高判H12・10・26〉は参考になる。

 

①東京地判平成26年4月28日判例秘書L06930345

土地を購入した買主が仲介業者に対し、近隣に暴力団関係団体事務所のビルがあることの調査説明義務に違反したとして、債務不履行または不法行為に基づく損害賠償請求として登録免許税(200万9600円)、不動産取得税(231万8800円)等の支払を求めた事案につき、当該ビルに関する事情は重要事項に該当するが、仲介業者が説明義務を負うのは当該ビルに暴力団関係団体事務所が存在すると認識していた場合であるとして請求を否定した。

土地登録免許税請求額(200万9600円)・認容額(0円)、不動産取得税請求額(231万8800円)・認容額(0円)

 

②東京地判平成24年2月8日判タ1388号216頁

特別地方公共団体が都市計画の情報提供のために作成した図面に高度地区表記の誤りがあったため、その表記を前提にマンション建築事業を計画し土地を購入した後に、同図面の誤りが判明したため同事業を断念した不動産業者の国家賠償請求を認めたが、表記が誤りであることを知っていれば土地を購入しなかったとはいえないこと、マンション建築を断念して同土地を売却したわけではないことから固定資産税及び都市計画税(27万3172円)、不動産取得税(53万7000円)の損害は因果関係がないとして否定した。

▶土地⇒固定資産税及び都市計画税−請求額(27万3172円)・認容額(0円)、不動産取得税−請求額(53万7000円)・認容額(0円)

 

③大阪高判平成23年10月14日判タ1400号116頁

山林の土砂埋立事業の許可申請に対し、手続的要件を具備していないとして不許可処分を行った市に対し、国家賠償責任を認めたが、固定資産税負担分(10万9584円)の請求は土地を所有していること自体に基づき発生・負担するものであるから因果関係がないとして否定した。

▶土地⇒固定資産税−請求額(10万9584円)・認容額(0円)

 

④東京高判平成12年10月26日判時1739号53頁

がけ地を含む土地の売買につき、不動産仲介業者が買主に対して関係法令に基づく規制があること、利用が大幅に制限され、多額の擁壁工事費用が生じることも説明しなかった場合には、仲介業者の賠償責任が発生するが、不動産取得税、固定資産税及び都市計画税については土地を保有していることに伴って生じた負担であり、仲介業者の債務不履行に基づく損害とはいえないとして否定した。

土地不動産取得税請求額(59万9100円)・認容額(0円)、固定資産税・都市計画税請求額(125万6932円)・認容額(0円)

 

⑤東京地判平成7年8月29日判時1560号107頁

交差点の反対側に暴力団事務所が存在することは、土地売買契約における「隠れたる瑕疵」に該当し、減価割合は2割を下らないとして売買代金の2割相当額を瑕疵担保責任に基づく賠償請求として売主に対して認めたが、固定資産税・都市計画税等は損害として否定した。

▶土地⇒固定資産税・都市計画税−請求額(8万3460円)・認容額(0円)

Q&A建築瑕疵損害賠償の実務  ―損害項目と賠償額の分析―

Q&A建築瑕疵損害賠償の実務 ―損害項目と賠償額の分析―

犬塚 浩 永 滋康 宮田 義晃 西浦 善彦 石橋 京士 堀岡 咲子

創耕舎

建築瑕疵の裁判例から重要なものを抽出し、その概要・損害賠償の可否・請求費目・具体的金額等を事案ごとに整理・分析し、住宅紛争処理の迅速かつ適切な解決・予防のために有益な書籍。

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