今回は、不動産の「登記費用」関連の損害に関する裁判例を見ていきます。※本連載では、犬塚浩氏監修・共著『Q&A建築瑕疵損害賠償の実務 ―損害項目と賠償額の分析―』(創耕舎)より一部を抜粋し、建築瑕疵(欠陥)によって起きた裁判のうち、「契約費用関係」の判例を中心にご紹介します。

損害として認められた具体的な例

Q  支払済登記費用が損害に含まれる場合はどのような場合でしょうか。

 

A  契約の効力が否定された場合、債務不履行責任または不法行為責任が認められた場合には登記費用も損害として認められることがある。

 

【肯定例】

売主、仲介業者のほか指定確認検査機関に対する損害賠償請求において建替建物の登記費用を認めた〈①横浜地判H24・1・31〉、注文者の請負人に対する損害賠償請求において建替する建物の登記費用を認めた〈④神戸姫路支判H7・1・30〉、売主の買主に対する損害賠償請求において認めた〈⑦東京地判H5・3・24〉がある。

 

①横浜地判平成24年1月31日判タ1389号155頁・判時2146号91頁

マンションの耐震強度が不足していた事案につき、建築確認を行った指定確認検査機関に対する損害賠償請求権を肯定し、建替建物の登記費用を損害として認めた。

▶マンション⇒登記費用−請求額(不明)・認容額(不明)

 

②大阪地判平成20年5月20日判タ1291号279頁

居住目的の土地建物の売買契約において売主を仲介する仲介業者は、建物の物理的瑕疵によって居住目的が実現できない可能性があるとの情報を認識している場合には買主に対し積極的にその情報を告知すべきであり、これを怠った仲介業者には不法行為責任が認められるとして登記関係費用等の支払を命じた。なお、買主から仲介の委託を受けていた会社の過失は被害者側の過失として斟酌すべきである等として公平の見地から損益相殺後の損害額の2割を過失相殺した。

▶土地建物⇒登記関係費用−請求額(34万3200円)・認容額(不明)

 

③東京地判平成10年5月13日判時1666号85頁

売買の対象となった建物に瑕疵が存在したことにつき、仲介業者以外に仲介的役割を果たした銀行や税理士の告知義務違反に基づく買主に対する不法行為責任を認め、登記費用相当額の賠償義務を連帯して認めた。

▶雑居ビル⇒登記費用−請求額(1000万円)・認容額(1000万円)

 

④神戸地姫路支判平成7年1月30日判時1531号92頁

建築請負契約における請負人からの残代金(本訴)請求に対して、注文者が請負人の従業員である建築士の過失による鉄骨造マンションの瑕疵の存在を主張して、請負人の使用者責任として建替と同様の補修費用等の反訴請求を行った事案につき、瑕疵の存在を認め、注文者からの損害賠償請求の内容として登記費用と不動産取得税相当額の合計97万4080円ほかの請求を認めた。

▶鉄骨造マンション⇒登記費用・不動産取得税相当額−請求額(97万4080円)・認容額(97万4080円)

 

⑤東京地判平成6年12月16日判タ891号139頁

地主から土地を借りてマンションを建築する計画が、借地人・保証人(事前求償権者)により破棄され、マンション建築計画が頓挫したという事案につき、マンション建築計画のパートナー(主債務者)から借地人(保証人)に対する損害賠償請求を認め、マンション建築計画遂行のために支払った登記費用10万円の請求を認めた。

▶マンション⇒登記費用−請求額(10万円)・認容額(10万円)

 

⑥東京高判平成6年7月18日判時1518号19頁

売買の対象となった土地、一戸建て建物に関する建蔽率・容積率について誤った新聞広告がなされ、かつ契約締結時においても仲介業者から買主に対して誤った説明がなされた事案につき、買主の錯誤無効の主張が認められ、買主の売主に対する登記手続費用(87万50円)の(不当利得)返還請求が認められた。

▶一戸建て⇒登記手続費用−請求額(87万50円)・認容額(87万50円)

 

⑦東京地判平成5年3月24日判時1489号127頁

土地建物の売買契約の後、大量のカビの発生により地下室が使用できなくなり、壁の一部が崩壊するなどした事案につき、売主の買主に対する不法行為責任を認め、登記費用としての22万5250円ほかの賠償請求を認めた。

▶木造一戸建て(地下室)⇒登記費用−請求額(22万5250円)・認容額(22万5250円)

「因果関係がない」として否定された登記費用の損害

【否定例】

土地及び建物についての売買契約に関連する債務不履行責任・不法行為責任が発生する場合でも「土地を保有していることによって生じた負担」であるとして損害を認めなかった〈②東京高判H12・10・26〉及び借地権付建物売買において擁壁の瑕疵を敷地賃貸人の修繕の問題であるとして解除を否定した〈④最判H3・4・2〉は参考になる

 

①東京地判平成24年2月8日判タ1388号216頁

特別地方公共団体が都市計画の情報提供のために作成した図面に高度地区表記の誤りがあったため、その表記を前提にマンション建築事業を計画し土地を購入した後に、同図面の誤りが判明したため同事業を断念した不動産業者の国家賠償請求を認めたが、表記が誤りであることを知っていれば土地を購入しなかったとはいえないこと、マンション建築を断念して同土地を売却したわけではないことから登記費用(44万1140円)の損害は因果関係がないとして否定した。

▶土地⇒登記費用−請求額(44万1140円)・認容額(0円)

 

②東京高判平成12年10月26日判時1739号53頁

がけ地を含む土地の売買につき、不動産仲介業者が買主に対して関係法令に基づく規制があること、利用が大幅に制限され、多額の擁壁工事費用が生じることも説明しなかった場合には、仲介業者の賠償責任を認めるも、登記手続費用(69万7400円)については本件土地を保有していたことによって生じた負担であり、仲介業者の債務不履行に基づく損害とはいえないとして否定した。

▶土地⇒登記手続費用−請求額(69万7400円)・認容額(0円)

 

③東京地判平成7年8月29日判時1560号107頁

交差点の反対側に暴力団事務所が存在することは、土地売買契約における「隠れたる瑕疵」に該当し、減価割合は2割を下らないとして売買代金の2割相当額を瑕疵担保責任に基づく賠償請求として売主に対して認めたが、登記手続費用については損害として否定した。

▶土地⇒登記手続費用−請求額(105万3800円)・認容額(0円)

 

④最判平成3年4月2日判時1386号91頁

借地権付き建物売買において、敷地部分である擁壁に建物倒壊の危険性のある場合でも、土地所有者である賃貸人が借地人に対して修繕義務を負担すべき対象である場合には、このような状況は建物売買の目的物の「隠れたる瑕疵」ではなく、敷地賃貸人の修繕義務の問題であるとして解除に基づく代金請求及び登記費用の賠償請求を否定した。

▶借地権付建物⇒代金請求・登記費用−請求額(不明)・認容額(0円)

 

東京地判平成2年2月9日判時1365号71頁

仕事の目的物に瑕疵があることについては、請負契約の瑕疵担保責任を主張するボーリング場注文者に主張立証責任があり、不具合の主張だけでは不十分として、建物を再建築した場合の登記手続費用200万円の賠償請求を否定した。

▶ボーリング場⇒登記手続費用−請求額(200万円)・認容額(0円)

Q&A建築瑕疵損害賠償の実務  ―損害項目と賠償額の分析―

Q&A建築瑕疵損害賠償の実務 ―損害項目と賠償額の分析―

犬塚 浩 永 滋康 宮田 義晃 西浦 善彦 石橋 京士 堀岡 咲子

創耕舎

建築瑕疵の裁判例から重要なものを抽出し、その概要・損害賠償の可否・請求費目・具体的金額等を事案ごとに整理・分析し、住宅紛争処理の迅速かつ適切な解決・予防のために有益な書籍。

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