(※写真はイメージです/PIXTA)

「自分の死後は、残された家族に迷惑をかけないようにしたい」と願うのは、誰しもが持つ自然な思いです。特に、家族の中に認知症や知的障害を抱える人がいる場合、その準備はより一層重要になります。事前の計画がなければ、残された家族が直面する困難は計り知れません。この記事では、自身も障害児の母親であることから、障害児家庭における資産に関する問題に詳しい大野紗代子税理士が、万全の準備をした実際の事例をもとに、認知症や知的障害のある家庭で、相続における家族への事前の配慮がいかに重要であるかを解説します。

遺言書がないと……家族に降りかかる“重大なリスク”

「遺言書がない今の状態で山崎さんが亡くなると、奥様、長男さん、次男さんの3人で誰がどの財産をどれだけ相続するかの話し合いを行うことになります。これを法律用語では遺産分割協議と言います。

 

しかし、奥様のように認知症になってしまっている方や、次男さんのように知的障害があり、自分の意思決定が難しい方がいる場合には、その遺産分割協議を進めることができません。そのような場合には、成年後見人をつけて、奥様や次男さんに代わって遺産分割協議をすることになります」

 

山崎さんは驚き、急いでノートとボールペンを取り出してメモを取り始めました。

 

成年後見人がついて遺産分割協議をすることになると、成年後見人は、被後見人(=今回の場合は奥様と次男さん)の権利を守ることに努めます。遺産分割では、法定相続分である奥様1/2、次男さん1/4の権利を相続させなければなりません。そうすると、山崎さんの希望である長男さんに多めに残すということが難しくなります。

 

また、成年後見制度は一度始めると、被後見人が亡くなるまでやめることができない場合がほとんどです。つまり奥様と次男さんが亡くなるまで成年後見人に後見報酬を支払わないといけません。

 

後見報酬は、被後見人の持っている財産額にもよりますが、月額2万円ほどかかるのが相場とされています。長期間払い続けると、かなりの経済的負担になります。

 

そのため、遺言書を書いて、遺産分割協議をする必要がない状況にすることをお勧めしました。

「自宅約5,000万円を長男に託す」ことを勧めたワケ

山崎さんの場合、自宅の不動産を保有されているので、自宅約5,000万円は長男さんに相続させて、金融資産約5,000万円を奥様と次男さんで分ける分割方法を提案しました。

 

その理由は、不動産は金融資産に比べて管理が大変で、例えばリフォームをしたり、売却したり、人に貸したりする場合にも意思決定が必要だからです。長男さん以外が相続し、意思決定ができない場面が生じると、再び成年後見人をつける必要が出てくる可能性があります。

 

さらに、同居している長男さんが自宅を相続することで、小規模宅地の特例が適用され、自宅敷地を相続した場合に相続税が安くなるという大きな利点もあります。

 

あわせて、奥様と次男さんに相続させる予定の5,000万円の金融資産については、遺言書ではなく家族信託をお勧めしました。

 

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