(※写真はイメージです/PIXTA)

※本稿は、チーフリサーチストラテジスト・石井康之氏(三井住友DSアセットマネジメント株式会社)による寄稿です。「アジアリサーチセンター」のレポートを基に、2024年10月のアジア・マーケットを振り返ります。

 

【“プロ”に聞く!ベトナム経済】

~9月の大型台風被害を乗り越える~

7-9月期の成長率は加速

ベトナムの7-9月期の実質GDP成長率は前年同期比+7.4%と、市場予想の同+6.1%を上回り、4-6月期の同+6.9%から加速しました。政府の2024年成長率目標は6.0~6.5%ですが、仮に10-12月期の成長率が+4.2%へ鈍化するにしても下限の達成は可能です。実際には10-12月期は年度最後の四半期なので、循環的な景気モメンタムは加速しやすく、2024年の成長率が7%に到達する可能性もあるとみています。

 

[図表1]ベトナムの実質GDP成長率

台風の影響は軽微

統計局は、9月上旬にベトナムを通過した大型台風の影響は主に農林水産業に現れたと分析しています。実際、農林水産業(全体の約10%シェア)は4-6月期に前年同期比+3.6%になった後、7-9月期には同+2.6%へ鈍化しました。一方、製造業(約25%シェア)は4-6月期の同+10.4%から7-9月期には同+11.4%へ加速しました。サービス業(約45%シェア)は同様に同+7.1%から同+7.5%へ加速しました。シェアは小さいながら2023年まで懸案であった不動産業(約3%シェア)は同様に同+2.4%から同+3.9%へ加速し、不動産問題は解決した可能性を示唆しました。

 

[図表2]実質GDP成長率(産業別)

歳入上振れが景気回復を裏付け

GDPは一定期間に国内で生産された付加価値の総額であり、統計上の誤差も含まれます。こうしたデータによるノイズの可能性を考慮して、財政統計など実際の金額を確認することも有用です。1-9月期の歳入額は前年同期比+17.9%と2桁増であり、年間予算の85.1%を消化(執行)しています。9ヵ月分の歳入額は年間12ヵ月分の75%に相当しますが、年度最後の四半期である10-12月期の歳入額は他の四半期よりも上振れる季節性があります。この点を考慮すれば、景気回復の進展は歳入のデータから裏付けられたと言えるでしょう。

 

[図表3]財政予算執行状況

インフレが鈍化

9月の消費者物価は前年同月比+2.6%と、市場予想の同+2.7%を下回り、8月の同+3.5%から鈍化しました。ドバイ原油価格の前年比は7月下旬以降マイナスになっており、10月上旬もマイナスのままです。実際、消費者物価の構成項目のうち運輸・交通の前年同月比は8月以降マイナスに転じています。中東情勢が更に混乱すれば供給面から原油価格の上昇リスクは残るものの、世界景気が緩やかに鈍化している状況を考慮すれば、需要面からは原油価格にはむしろ下落リスクがあります。原油価格が仮に足元の水準で変わらずに推移すると想定すれば、前年比がプラスに転じるタイミングは12月上旬とみられます。当面はインフレが低位安定する可能性が高そうです。

 

[図表4]消費者物価指数

ドン高余地あり

9月の米雇用統計が強めの内容になったことを契機に米国景気は予想外に堅調との観測が広がり、今後の米国の利下げ観測がやや後退したため、10月に入ってから米ドルが上昇しています。今後、米国景気は緩やかに鈍化するとの弊社見通しに従えば、米国の利下げ観測が戻り、米ドルは下落しやすくなります。米ドルが再び下落局面に入れば、ベトナムドンの対米ドルレートには上昇余地が出てきます。ドン高は輸入インフレを抑制することから、インフレ期待も目先は安定推移しそうです。実際にドン高局面に戻れば、ベトナム国家銀行(中央銀行)には利下げを含む金融緩和余地が出てきます。この点は景気下支え要因となります。

 

[図表5]ドンと米ドル指数

 

(2024年10月18日)

 

石井 康之

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

チーフリサーチストラテジスト

 

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