(※写真はイメージです/PIXTA)

9月17日から18日にかけて開かれたFOMCの会合。ここで「0.5%」の利下げが決定されましたが、先日その議事要旨が公開され、参加者のなかに「0.25%のほうが好ましい」と考えていた人が少なくなかったことが明らかになりました。FRBが“強行”したともとれる9月の利下げ。これが米国内でインフレが鎮静化しない原因にもなっていると、フィデリティ・インスティテュート主席研究員でマクロストラテジストの重見吉徳氏は指摘します。近年、アメリカが置かれている「危機的状況」について、本記事で詳しくみていきましょう。

「第2のニクソン・ショック」と呼ばれた、パウエル氏の“決断”

物価の安定は放っておき、「雇用の最大化」を目指すと宣言

パウエル議長は、2020年8月のジャクソンホール会議で、「インフレは低迷しており、最大雇用になってもインフレは高まらない」(≒フィリップス・カーブはフラットなままである)との見通しから、「幅広く包括的な目標」(a broad-based and inclusive goal)として最大雇用を目指すことを表明します。

 

‘In addition, our revised statement says that our policy decision will be informed by our “assessments of the shortfalls of employment from its maximum level" rather than by “deviations from its maximum level" as in our previous statement.

 

This change may appear subtle, but it reflects our view that a robust job market can be sustained without causing an outbreak of inflation.’

 

(引用者訳:付け加えると、今般改定した我々の声明は、我々の政策決定が、これまでの声明のように「最大水準の雇用からのかい離」によってではなく、「最大水準の雇用からの不足の評価」によって示されることを述べています。

 

かかる変更は些細なものに見えるかもしれません。しかし、それは、頑健な労働市場が突発的なインフレを引き起こすことなく持続できるとの我々の見通しを反映するものです)。

 

この決定は、幾分わかりにくいかもしれませんが、わかりやすくいえば、FRBはこのとき、自らの2つの責務のうち、(「たとえ、最大雇用になったとしても、もうインフレは起きない」として)「物価の安定」は放ってしまい、「雇用の最大化」に大きな力点を置くことにしたのです。

 

これは、総需要と総供給、労働需要と労働供給を無視した議論です。

 

この決定を、あるアナリストは『第2のニクソン・ショック』と呼びました。1971年8月15日のニクソン・ショックは、(常に同じ金額のドルと同じ量の金と交換を約束することで)「貨幣の価値を金に結びつけて物価を安定させること」を放棄したイベントです。

 

この金ドル本位制(ブレトン・ウッズ体制)が崩壊したあと、物価安定の役割を前面で担ったのは中央銀行でした。しかし、2020年8月、FRBは「雇用の最大化」を目指すことを決定しました。

 

「インフレは高まらない」と宣言した直後、インフレが起こったが…

しかし、そう言ったそばからインフレが起きました。そして、FRBはそれを当初は「一時的」として無視し、対処を怠りました(→そして、一般庶民の購買力を破壊し、富の格差を拡大させました)。FRBのトップであるパウエル氏が「インフレの恐ろしさ」をまったく理解していなかったことは恐ろしいことでした。

 

少なくともこのとき(2020年)以来、パウエル氏率いる現在のFRBは1960年代や70年代に負けず劣らずの「緩和バイアス」を堅持しており、このバイアスこそが新たな高いインフレにつながると筆者は考えています。

 

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