明るい兆しが見えた9月「賃金」関連判断DI…冬のボーナスへ高まる期待【解説:エコノミスト宅森昭吉氏】

景気の予告信号灯としての身近なデータ(2024年10月9日)

明るい兆しが見えた9月「賃金」関連判断DI…冬のボーナスへ高まる期待【解説:エコノミスト宅森昭吉氏】
(※画像はイメージです/PIXTA)

米や衣服などの身近な物価、気温、観光需要、実質賃金の動きなど、さまざまな要因が景気に影響を与えています。本稿では、景気の予告信号灯となり得る身近なデータとして、9月「景気ウォッチャー調査」を取り上げます。エコノミスト・宅森昭吉氏の解説をみていきましょう。

9月の現状判断DI(季節調整値)は前月より1.2ポイント低下

9月「景気ウォッチャー調査」では、現状判断DI(季節調整値)が47.8となり、前月より1.2ポイント低下ですが、2ヵ月前の7月の47.5は上回りました。

 

[図表1]24年8月~9月調査:「米不足」関連コメント集計表
出所:内閣府「景気ウォッチャー調査」より作成

 

米の価格上昇、秋物商材の不振など高い気温や、豪雨などの天候要因が影響したようです。9月の「米不足」関連DIをつくると、現状判断は39.6と、新米が出回り米不足は解消しつつあっても、価格が大きく上昇したことを指摘するコメントが多くありました。ただし、先行き米不足に触れるコメントは1件だけで、DIも50.0です。この影響は一時的と思われます。

 

また、業種別の現状判断DI(原数値)をみると、秋物衣料の売れ行き不振の、衣料品専門店の悪さが目立ちます。

 

[図表2]内閣府:景気ウォッチャー調査:分野・業種別景気現状判断(方向性/原数値)出所:内閣府

 

方向性のデータである現状判断DIと異なり、現状水準判断DI(季節調整値)は47.9。0.1ポイントとわずかに上昇、4ヵ月連続の改善となりました。サービス関連DIは現状判断では悪化ですが、現状水準判断では改善です。現状判断DIの悪化は比較的軽微な要因によるものと思われます。

 

内閣府の基調判断は前回8月に7月までの「緩やかな回復基調が続いているものの、このところ弱さがみられる」から「景気は、緩やかな回復基調が続いている」に15ヵ月ぶりに上方修正となりましたが、9月は判断据え置きになりました。

 

[図表3]景気ウォッチャー調査(24年8月・9月)、季節調整値出所:内閣府

今年は「遅めの秋」も…10月に気温が下がることで今後へ期待

9月20日に、福岡県太宰府市では最高気温が35℃以上の猛暑日が今年62日目となり、国内の最多記録を更新しました。9月の「猛暑」関連現状判断DIは43.4で8月45.6からさらに悪化しました。なお、2~3ヵ月先の先行き判断での「猛暑」関連DIは9月55.6です。今年は秋が来るのは遅かったですが、11月頃になり気温が落ち着けば、景気に対するマイナスの影響がなくなることを期待していることを示唆していると思われます。

 

九州の商店街・代表者が「6月以降は猛暑により影響を受けたが、10月に入ると気候も良くなるため、今後に期待している」と、「ややよくなる」いう判断理由をコメントしています。

 

[図表4]2024年7月・8月・9月の気候関連DI出所:内閣府データから筆者作成

南海トラフ地震臨時情報の影響薄らぐ

内閣府が、景気ウォッチャーの見方としてまとめた基調判断で、6月に「また、令和6年能登半島地震の影響もみられる」が削除され、7月までの「地震or震災」関連判断DIからみても、能登半島地震の景気への影響は小さくなっていました。しかし、8月8日に気象庁が、「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」を発表したことなどで、7月で8名だった現状判断のコメント数は8月に78名に増加したあと、9月では25名に減少しました。

 

[図表5]2024年8月調査:地域別「地震・震災」関連現状判断DI出所:内閣府「景気ウォッチャー調査」より作成

 

[図表6]2024年9月調査:地域別「地震・震災」関連現状判断DI
出所:内閣府「景気ウォッチャー調査」より作成

自動車メーカーの型式不正問題のマイナス影響はなくなった模様

トヨタ自動車は、認証不正問題で6月から3ヵ月間、「ヤリスクロス」「カローラフィールダー」「カローラアクシオ」の3つの車種を生産停止にしていました。当初は9月2日の生産再開を予定していましたが、台風10号の接近によって部品の調達が遅れたため、4日夕方から生産が再開されました。

 

9月で「不正」というワードを使ったコメントは、現状判断、先行き判断とも、1名ずつでした。9月の関連判断DIは、現状75.0、先行き50.0になりました。自動車型式不正問題の景気へのマイナスの影響は、なくなったといえる状況です。

 

[図表7]23年11月~24年9月調査:不正関連コメント集計表
出所:内閣府「景気ウォッチャー調査」より作成

9月「価格or物価」関連現状判断DI…最近の低水準〈6月〉に比べると改善

6月「価格or物価」関連現状判断DIは40.6で23年1月の35.1以来の悪い水準になり、コメントした景気ウォッチャーは247名と、こちらも23年1月の250名以来の水準になりました。

 

しかし、ドル円レートが円高方向に戻り、原油価格がWTI月中平均でみて、7月約80ドル/バレル、8月約75ドル/バレル、9月約70ドル/バレルと落ち着いてきたこと(10月に入ると中東情勢緊迫化で上昇したが)、9月中旬の円ベースの入着原油価格が前年比マイナスに転じるなどの環境変化もあり、9月「価格or物価」関連現状判断DIは50を下回っているものの44.1まで改善し、コメント数は185名になりました。

 

[図表8]2023年1月~2024年9月調査:価格・物価関連コメント集計表
出所:内閣府「景気ウォッチャー調査」より作成

「新型コロナウイルス」を景気判断の材料としてみる人の数は過去最低に

第11波で感染者数が増加していたことへの懸念を背景に、7月では「新型コロナウイルス」関連先行き判断で54名とコメント数が増加し、先行き判断DIは48.6と22年11月の48.6以来の50割れになりました。

 

その後、感染者数が落ち着いてきたことを背景に、「新型コロナウイルス」関連先行き判断DIは8月53.8、9月59.4と2ヵ月連続50超になりました。コロナ禍が始まったばかりの2020年2月・3月には先行き判断で1,000名を超えるウォッチャーがコメントしていましたが、9月は16名と過去最低水準を更新しました。

 

[図表9]新型コロナウイルス・先行き判断コメント数
出所:内閣府「景気ウォッチャー調査」より作成

9月「外国人orインバウンド」関連現状判断DI

9月の「外国人orインバウンド」関連の現状判断DIは52.5と2ヵ月連続60を割り込みましたが、現状判断DIは22年5月から景気判断の分岐点50超が維持されています。

 

一方、先行き判断で「外国人orインバウンド」関連DIは、22年4月の46.9以来18ヵ月ぶりの50割れになった23年10月49.9から上昇に転じ、24年3月は23年7月69.8以来の水準である67.6まで改善してきましたが、4月以降60割れとなったものの、9月54.1と50台での推移となっています。

 

[図表10]「外国人orインバウンド」関連DIの推移
出所:内閣府「景気ウォッチャー調査」より作成

9月「実質賃金」関連先行き判断DI…6月・7月のボーナス効果で景気ウォッチャーのマインドに変化か

9月の賃金関連の判断DIは明るい兆しが見えたものが多かったと感じます。名目ベースの賃金自体は伸びが続いています。毎月勤労統計・8月速報値の「所定内給与」が前年同月比+3.0%と31年10ヵ月ぶりの高い伸び率になりました。

 

こうした賃上げの動きが景気ウォッチャーにも実感されているとみられ、9月の「賃上げ」関連現状判断DIは56.3、先行き判断DIは61.7とどちらも50超になりました。冬のボーナスへの期待もあり、9月「ボーナス」関連先行き判断DIは70.8と、7月57.1、8月68.8に続き70台まで上昇しました。

 

毎月勤労統計の6月・7月実質賃金がボーナス効果で前年比プラスになったことが影響したのか、8月まで景気判断の分岐点50を下回っていた「実質賃金」関連判断DIは9月に改善しました。現状判断DIは50.0になり、先行き判断DIは60.7と50超に転じました。こうした賃金関連の判断DIは明るい兆しは先々の個人消費増加につながるものと期待されます。

 

最低賃金上昇分をすべて価格転嫁することは難しい

ただし、9月の「最低賃金」関連DIは現状判断DI35.0、先行き判断DI46.3と50割れとなりました。最低賃金改定で収入が大きく増え消費が活性化するという家計のプラス要因と、最低賃金上昇分をすべて価格転嫁することは難しいという企業のマイナス要因のせめぎあいで、後者が強いようです。

 

[図表11]24年7月・8月・9月の賃金関連DI
出所:内閣府データから筆者作成

調査期間最終日に株価大幅下落…9月「政権政党の総裁選」関連現状判断DIへの影響

9月の「景気ウォッチャー調査」では、現状判断で4名、先行き判断で21名が「政権政党の総裁選」に関してコメントしました。

 

9月の「政権政党の総裁選」関連現状判断DIは12.5と非常に低い数字になりました。9月27日の自民党総裁選挙の結果が、日経平均株価へ反映したのは30日の月曜日、調査期間の最終日でした。第1回投票で高市氏が優勢だったことから、27日金曜日の日経平均株価終値は3万9,829円56銭、前日比+903円93銭高をつけたものの、石破総裁に決まったことで反動が生じ、30日の終値は3万7,919円55銭、前日比▲1,910円01銭の大幅安になったことを反映したと思われます。

 

その後、日経平均株価は石破新総理の経済政策に対する過度な不安が解消し、10月9日寄付で3万9,385円49銭まで戻っています。9月「政権政党の総裁選」関連先行き判断DIは46.4と景気判断の分岐点の50にかなり近い数字になっていたことと、整合的だと思われます。

 

[図表12]景気ウォッチャー調査(2024年9月)主な要因別DI
出所:内閣府データより作成

 

※なお、本投稿は情報提供を目的としており、金融取引などを提案するものではありません。

 

 

宅森 昭吉(景気探検家・エコノミスト)

三井銀行で東京支店勤務後エコノミスト業務。さくら証券発足時にチーフエコノミスト。さくら投信投資顧問、三井住友アセットマネジメント、三井住友DSアセットマネジメントでもチーフエコノミスト。23年4月からフリー。景気探検家として活動。現在、ESPフォーキャスト調査委員会委員等。

 

 

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