万博目前で暗雲？景気足踏みに米関税の影…楽観消え、慎重ムード広がる【解説：エコノミスト宅森昭吉氏】

景気の予告信号灯としての身近なデータ（2025年4月9日）

2025.4.10

万博目前で暗雲？景気足踏みに米関税の影…楽観消え、慎重ムード広がる【解説：エコノミスト宅森昭吉氏】

（※画像はイメージです／PIXTA）

内閣府が発表した最新の景気ウォッチャー調査によると、開幕が迫る大阪・関西万博に期待が高まっていることがわかりました。一方で、足元の景気には慎重な見方が広がっています。現状判断DIが低下し、先行き判断からは「緩やかな回復が続く」との文言が削除されました。その背景には、物価高に加え、アメリカの通商政策に対する根強い懸念があります。本稿では、「3月景気ウォッチャー調査」を取り上げ、景気の先行きを左右する要因を紐解きます。エコノミスト・宅森昭吉氏の解説をみていきましょう。

米関税政策への懸念が原因か…先行き基調判断に慎重な風向き

3月現状判断DI45.1、前月差▲0.5ポイント。内閣府の先行き基調判断では「緩やかな回復が続く」が消えて、「米国の通商政策への懸念」が加わる。

25年3月の景気ウォッチャー調査で、現状判断DI（季節調整値）は前月差0.5ポイント低下の45.1となりました。22年7月43.6以来の低水準です。先行き判断DI（季節調整値）は、前月差1.4ポイント低下の45.2となりました。物価高の影響やアメリカの関税政策への懸念が高まったことなどから、両DIとも低下しました。

なお、原数値でみると、3月現状判断DIは前月差2.7ポイント上昇の47.8でこちらは上昇になっています。一方、先行き判断DIは前月差1.8ポイント低下の46.6と原数値でも低下しました。

［図表1］景気ウォッチャー調査（25年2月・3月）・季節調整値出所：内閣府

内閣府の3月の現状に関する基調判断は、「景気は、緩やかな回復基調が続いているものの、このところ弱さがみられる」で2月と同じでした。一方、先行きについて3月は「賃上げへの期待がある一方、従前からみられる価格上昇の影響に加え、米国の通商政策への懸念もみられる」と、2月の「緩やかな回復が続くとみているものの、引き続き価格上昇の影響等に対する懸念がみられる」から「緩やかな回復が続く」が消えて、「米国の通商政策への懸念」が加わりました。先行きの判断が厳しくなった感じがします。

地域別にみた3月の現状判断DIは12地域でみると、2月に続いてすべての地域で景気判断の分岐点の50を下回りました。南関東のなかから特別に集計した東京都だけが、3月も50.9と50超を維持しています。

［図表2］景気ウォッチャー調査：地域別景気の現状判断DI（方向性）季節調整値出所：内閣府

価格や物価DIは引き続き40台付近の低水準

3月「価格or物価」関連判断DIは、現状39.4、先行き40.1と引き続き低水準で推移し、全体の判断DIの足を引っ張る。

3月「価格or物価」関連現状判断DIは39.4、23年1月の35.1以来2年ぶりの低い水準だった25年1月38.4、2月38.5から2ヵ月連続で上昇しましたが依然厳しい数字。現状判断のコメント数は276名でした。

［図表3］2023年1月～2025年3月調査：価格・物価関連コメント集計表注：◎「良」、〇「やや良」、□「不変」、▲「やや悪」、×「悪」
出所：内閣府「景気ウォッチャー調査」より作成。

一方、3月「価格or物価」関連先行き判断DIは40.1で2月40.7から0.6ポイント低下しました。先行き判断のコメント数は395名でかなり多い数字になりましたが、23年8月の404人以来の多さになった2月の400名からは5名少なくなりました。現状・先行きとも指数は低水準、コメント数は多めで、全体の判断DIの足を引っ張っています。

［図表4］価格or物価関連・先行き判断コメント数とDIの推移出所：内閣府「景気ウォッチャー調査」より作成

トランプ政策への関心高まる…関連DIは悪化の一途、コメント数は倍に

トランプ関税の悪影響が月を追うごとに拡大。3月「関税」関連先行き判断DIは37.5と2ヵ月連続30台の低水準。コメント数は3月68名で2月35名の倍近くに。

トランプ米国大統領が就任したあと、毎日のように「関税」に関するニュースが流れるなか、実際にどこまで実施するかという見方に関し、景気ウォッチャーの受け止め方が悪い方向に動いている感が強い状況です。ただし、3月調査「関税」関連先行き判断DIは、3月37.5と2月の35.7に続き2ヵ月連続30台の低水準になりました。コメント数は68名で、24年12月7名、1月14名、2月35名とおおむね月を追うごとに倍になってきました。

なお、「トランプ米国大統領」関連先行き判断DIは就任前の12月に50.0でしたが、1月46.4、2月43.8、3月37.5と就任後は毎月悪化してきました。

［図表5］24年12月～25年3月調査：「関税」関連コメント集計表注：◎「良」、〇「やや良」、□「不変」、▲「やや悪」、×「悪」

出所：内閣府「景気ウォッチャー調査」より作成

インバウンド関連DIは伸び悩み

3月の「外国人orインバウンド」関連判断DIは現状・先行きとも、24年12月の60台を下回り、1月・2月に続き3ヵ月連続50台に。

1月の「外国人orインバウンド」関連の現状判断DIは55.9、同先行き判断DIは55.6で、どちらも12月の60台から揃って50台に低下しました。2月の「外国人orインバウンド」関連の現状判断DIは53.6、同先行き判断DIは59.5で、どちらも50台。今回の3月「外国人orインバウンド」関連の現状判断DI、同先行き判断DIとも56.2で50台でした。

インバウンドのプラス効果はあるものの、だんだん常態化してきていることもあって高いDIは出にくくなっているようです。それでも、「外国人orインバウンド」関連現状判断DIは22年5月から景気判断の分岐点50超が維持されていて全体の現状判断DIを支える要因になっています。

［図表6］「外国人orインバウンド」関連DIの推移出所：内閣府「景気ウォッチャー調査」より作成

開幕直前・大阪万博は60台の高水準DIを記録

「万博」関連先行き判断コメント数は3月に59名と12月の7.4倍に増加。同DIは63.1と4ヵ月連続で60台の高水準。

大阪・関西万博がいよいよ4月13日に開幕します。「景気ウォッチャー調査」の先行き判断でのコメント数は11月までは1ケタで関心の薄さが気懸かりでしたが、12月10名、1月6名、2月45名、3月59名まで増加してきています。3月「万博」関連先行き判断DIは63.1と4ヵ月連続で60台の高水準になっています。

［図表7］24年11月～25年3月調査：「万博」関連コメント集計表注：◎「良」、〇「やや良」、□「不変」、▲「やや悪」、×「悪」
出所：内閣府「景気ウォッチャー調査」より作成。

3月「桜」関連現状判断DIは50.0とパッとしない数字になりました。「3月後半は桜観賞を目的とした客が多くなるが、今年は桜の開花が遅く、例年と比べ客足が鈍い」という中国地方の観光型ホテル・副支配人のコメントがありました。

［図表8］景気ウォッチャー調査（2025年3月）主な要因別DI 出所：内閣府データより作成

※なお、本投稿は情報提供を目的としており、金融取引などを提案するものではありません。

宅森昭吉（景気探検家・エコノミスト）

三井銀行で東京支店勤務後エコノミスト業務。さくら証券発足時にチーフエコノミスト。さくら投信投資顧問、三井住友アセットマネジメント、三井住友DSアセットマネジメントでもチーフエコノミスト。23年4月からフリー。景気探検家として活動。現在、ESPフォーキャスト調査委員会委員等。

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宅森昭吉

景気探検家・エコノミスト

三井銀行で東京支店勤務後エコノミスト業務。さくら証券発足時にチーフエコノミスト。さくら投信投資顧問、三井住友アセットマネジメント、三井住友DSアセットマネジメントでもチーフエコノミスト。 23年4月からフリー。景気探検家として活動。現在、ESPフォーキャスト調査委員会委員等。

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