エッセンシャルワーカーがコンプラ違反をする理由
現場に長らく携わってきたエッセンシャルワーカーもコンプラ違反をする率は高いですが、理由はビジネスマンとはまったく違います。というのも、コンプライアンス=法令ですが、それを知るためには行政文書を読む、あるいはそれについて教えてもらうなど学習しなければなりません。つまり、ここには情報をインプットし、それをアウトプットするという知識労働があります。
それこそが学校教育でなされるべきことですが、エッセンシャルワーカーから起業した方の多くが、勉強があまり好きではないので、この業界を選んだとの印象があります。勉強しなくても良い仕事、すなわち身体を使う仕事です。
つまり、情報をインプットするのが得意ではなく、心や身体を使うことが好きな中で、経営者になった途端、行政文書を読む羽目に陥り、そこに書いてある文章の意味自体が分からなかったりするわけです。そして最悪の場合、法令を知らないまま経営をしてしまう。
行政の指定申請書ですら、Excelが使えずにお手上げという経営者もいる中で、知識労働に慣れていない人が複雑な行政文書を理解するのはかなり厳しいことは確かです。でも、彼らの多くが心優しく、「利用者さんのために」という思いで経営している中で、知らない間にコンプラ違反を犯してしまい、それをどうしていいかもわからず処分されているのはよくあるケースです。
正義の人がコンプラ違反をする理由
障害福祉制度や介護保険制度は元来、社会的公正を求めるムーブメントの延長として制度化されたもので、社会活動家や、社会変革を志向する人たちがこの業界を選んだというパターンがあります。そして、彼らの基本的な価値観の中には「行政=悪」というのがあるわけです。どう考えてもおかしいことではありますが、これは長年にわたる双方のぶつかり合いに起因しています。
つまり、行政が税金をしかるべきところに分配する役割を持つのに対し、社会活動家は何かしらの社会課題に対して新たに予算の分配を求めますが、予算がすでに決まっている場合、分配することはできません。ここから双方の飽くなきぶつかり合いが始まるわけですが、その繰り返しの中で行政が新たな予算配分を決定したりと、社会的な公正が生まれてきます。重度訪問介護しかり、女性団体の強い意見によって生まれた介護保険制度もしかりです。
介護保険制度そのものは、介護が仕事になると女性が家事労働から解放されて外で働けるようになるという、男女共同参画を求めて女性団体が要求し、制度化されたものですが、一方で、この仕事そのものが、女性が社会的に活躍するチャンスにもなり得るというような、いわゆる運動の中で生まれた側面があります。
つまり、この障害福祉と高齢福祉分野は正義の人たちが行政と闘いながら作った仕事であり、さんざんぶつかり合ってきたわけで、彼らには行政=悪という視点があります。そうした正義の人が経営者となった時、コンプライアンスの遵守は行政からルールを課されることと同一です。
すると、「行政は現場のことをまったく分かっていない。だから行政の言うことなど一切聞く必要はない」という感覚になり、確信犯的にコンプライアンスを破っていきます。
相手が悪いわけだから、悪いことをしている感覚もありません。ただし、社会正義があるから様々な福祉制度が生まれたことをみても、正義はもう一方において社会を良くしていくための一つの判断軸にもなり得ます。つまり正義というのはもろ刃の刃で、良いか悪いかではなく、毒と薬という両義性を持つ、まさにドラッグであり、1歩間違えると非常に危険な存在です。
中には法を破壊するような機能があるので、社会正義が過剰になりすぎるとコンプラに対して鈍感になり、コンプラ違反のきっかけともなり、それがコンプラ違反の文化を醸成していくわけです。
もっとも、コンプライアンス至上主義者から何か新しいクリエイティブなものが生まれた試しはないので、正義の人の両義性というのはあるとは思いますが、バランスが大事だと感じます。
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