「もう限界です」親の介護でイライラ、優しくできず自己嫌悪…募る介護ストレス、対処法は【認知症介護のプロが回答】

「もう限界です」親の介護でイライラ、優しくできず自己嫌悪…募る介護ストレス、対処法は【認知症介護のプロが回答】
(※写真はイメージです/PIXTA)

「イライラする、限界だ」「イライラして優しくできない自分が嫌になる」。親の介護をする家族の方から、こういった悲痛な声がしばしば聞かれます。ストレスを溜めすぎることなく、上手に親の介護を続けていくには、どうすればよいのでしょうか? 認知症介護の第一人者である高浜将之氏(元:有限会社のがわ 代表取締役)が、イライラの対処法を解説します。

親の介護でイライラするのは当たり前

■「自分の親だからこそ」感じるイライラ

親が要介護状態になり、介護する家族にストレスが溜まってイライラしてしまうのは、ごく当たり前のことです。問題は、それが限界に達して介護する側の家庭が崩壊してしまったり、家族の誰かが犠牲になったり、高齢者虐待につながってしまうことです。

 

とはいえ、長年の慣習から「自宅で親を介護するのが当然」という考えも根強くあり、そうした中で苛立ちが募っていくことも多いと思われます。また、その場合のほとんどが、親が「認知症」を患ったケースです。高齢者虐待でも、約7割が当事者に何らかの認知症の症状が見られます。というのも、末期がんなどで期間の目途が見えていれば介護する側の集中力も保たれ、頑張ることもできますが、要介護状態では長ければ20年以上にわたり介護が続くので終わりが見えません。だからこそストレスも溜まります。

 

また、認知症には多くの場合、記憶障害があるので、同じことを何度も聞いてきたり、伝えたことをすぐに忘れてしまい、まったく覚えていなかったりということもあります。理解力も判断力も衰えているので、何かするとなれば時間も非常にかかります。たとえば「出かけるから準備をしてくださいね」と言っても、放っておくと着替えることを忘れて違うことを始めている。そういったことが頻回に起きるわけです。

 

仕事としてなら「認知症ってそういうものだから」と思えますが、それが親であれば「さっき出るって言ったじゃないか。時間ないんだよ」と、どうしても苛立ってしまう。できないとわかっていても、どこかで期待しているんですよね。ですので、一挙手一投足にイライラすると思います。

イライラの「深層心理」を知る

■親の「年老い、失っていく姿」を受け入れられない

そもそも私たちは親が死ぬとは思っていません。親というのは自分が生まれたときから傍にいて面倒を見てくれていた絶対的な存在で、変化しないことが前提にあるので、親子関係の如何にかかわらず、今までの親の在り方が自分の中の常識として完全に固まっているんですよね。だから、親がどれだけ歳を取ろうとも、どれだけ周りで人が亡くなっていくのを見ていても、頭では親もいずれ死ぬとわかっていても、無意識下では自分の親が「死ぬ」ことを受け入れることができていないんじゃないかと思います。

 

一方で、親が色んな形で老いていき、変化して、今までの在りようとずれていくことに対しての恐怖心も強くあります。私たちは生まれてから様々なものを獲得する過程で評価され、それを「成長」と言われながら育ってきています。つまり何かを「得る」のが良いことだと、無意識に思うようになっているんです。けれど高齢者になるということは、色んなことができなくなる、いわば失っていく過程です。とりわけ要介護状態というのは、それが加速度的に増していくので、「親」という自分との境界線が比較的ゆるい人であれば、直視するのが非常に困難で、本来自分が思っていた親の姿ではなくなっていく現実も受け入れがたいものがあります。

 

親は死なない、でも変わっていく。境界線が曖昧だからこそ、親子関係には「甘え」、いわば気のゆるしがあるので、そうした相手から以前とまったく異なる反応があることに苛立ちが沸くと思います。

 

また、家族介護はプライベートな時間に行うので、仕事などと違って緊張感を持つのが困難です。緊張感のないまま変わりゆく親と居続けると、今まで通りの関係でやり取りしようとして、それが果たされないことからイライラも募ります。さらに、本来なら仕事で疲れている心身をリフレッシュする時間であるはずなのに、それを介護に費やさざるを得ないこともストレスの要因となります。

とりあえずの対処法:「親子として接する」のをやめる

■親の認知症介護で“唯一”うまくいっている接し方

ストレス耐性は個人差がありすぎるので、対処法は一概には言えませんが、一般的にイライラしたときは「その場を立ち去る」、「ストレッチしたり一呼吸置く」、あるいは「誰かにヘルプを頼む」などがあります。

 

とはいえ、一挙手一投足に苛立っている状況では、それにも限界があります。特に認知症になると、自分の親が自分のことを「子」として認識できなくなることがあります。これは子どもからすると、自分を否定されたような気持になり、本当にショックな出来事です。そのような場合にオススメなのは「親を親と思わない」こと。親が認知症である場合、「お父さん」「お母さん」と呼ばずに「〇〇さん」と、名前や苗字で呼ぶのが良いと思います。親と思うからイライラするのであって、瞬間的にでも親でないと思えば「この人はこういう人なんだな」と苛立ちも収まるはずです。

 

というのも、実際にこのように接していた人が、私が今まで見てきた中で唯一といってもいいくらい、親の介護がうまくいったケースなのです。その方の父親は認知症でしたが、あるとき「お父さん」と声を掛けると、「あなたは変なこと言うねえ。私に娘はおらんよ」と言われたらしいのです。それで「お父さんって言っても私のことを認識してくれないんだ」と、〇〇さんと名前で呼び始めました。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

50年間ほど「お父さん」と呼び続けてきて、パッと切り替えられたのはすごいことですが、そうできたのは親子関係の問題かもしれないし、パーソナリティの問題かもしれません。ですので、万人に当てはまるとも言えません。大切なのは、介護する親との「適切な距離感」を見つけることだと思います。

本気の対処法:介護は他人に任せる

■実は、「介護者のイライラ」が認知症を悪化させることも

とはいえ、適切な距離感を取るのは非常に難しいですし、親を親とは思わないといっても、果たして本当にそう思えるかというと、なかなか厳しいです。ですので、多くの人にとって一番いい方法は「介護しないこと」です。少しだけ関わったり、直接介護しないでマネジメントだけするのが最良だと思います。介護にかける労力を、介護サービスを探すことに充てるのがオススメです。

 

認知症というのは、昨日の記憶、今日の記憶、ついさっきの記憶がゴチャゴチャになっていたり、まったく覚えていなかったりします。前後のことを思い出そうとしても思い出せないので、不安が強くあります。症状が進むと昔の記憶だけになってきて、3年前、3ヵ月前のことが、本人にとっては“今日のお昼の話”だったりしかねないわけです。記憶の混乱は不安につながるので、認知症の方はどうしてもイライラしやすくなる傾向があります。

 

相手が自分を受け入れてくれると気持ちも落ち着きますが、こちらがイライラしてしまうようならドンドン不安が強くなり、様々な症状を引き起こしてしまいます。認知症の症状を悪化させるのは、「隣にいるイライラしている誰かの影響」というのは、一般的にあまり知られていないことかもしれません。「隣に誰がいるのか」、「自分がどこにいるのか」が重要で、自分を受け入れてくれたり、責めずにいてくれたりすると認知症状態になっても表情豊かに、穏やかに過ごせる時間が増えるんですね。

 

このような状況を作るには、在宅であれば各種の在宅サービスを活用し、家族が直接介護をしない方向に切り替えることが重要です。自身が介護をしていると、客観的に親を見るのは難しいですが、一歩離れることで必然的に適切な距離感も保てます。場合によっては、施設やグループホームへの入所も一つの選択肢です。施設やグループホームなど入居型の事業所に預けた場合は、親を放り出したという気持ちが強くなって「罪悪感」をもつ人も多いですが、グループホームに親が入居したある家族の方は、同ホームにボランティアで参加し、遠くから自分の親を見るなど間接的に関わることで罪悪感が軽減したと言います。家で一緒にいる時はお互いがイライラしていたけれど、入所してからの方が「いい顔をしている」と喜んでくれるケースのほうが多いですよ。

 

大切なのは「心の繋がり」です。だからこそ、無理を押して自分で抱え込もうとせず、信頼できる人を探して、その人に任せることに注力するのがベストです。これは認知症の当人が生活保護を受給している方でも、低所得者や中間層、富裕層の方でも同じです。要は、ご本人に合うサービスを受けてもらい、お互いが安心して暮らせることが重要なのです。

 

 

高浜 将之

株式会社土屋 常務取締役 兼 VICE COO

 

大学卒業後、営業の仕事をしていたが、2001年9月11日の同時多発テロを期に退職。1年間のフリーター生活の後、社会的マイノリティーの方々の支援をしたいと考え、2002年より介護業界へ足を踏み入れる。大型施設で2年間勤めた後、認知症グループホームに転職。以後、認知症ケアの世界にどっぷり浸かっている。グループホームでは一般職員からホーム長、複数の事業所の統括責任者等を経験。また、認知症介護指導者として東京都の認知症研修等の講師や地域での認知症への啓発活動等も積極的に取り組んでいる。

 

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