お金があれば利用したい?…「豪華で、全部やってくれる高級老人ホームがいいよね。」“家族目線の介護サービス選び”にある誤解【認知症介護のプロが解説】

お金があれば利用したい?…「豪華で、全部やってくれる高級老人ホームがいいよね。」“家族目線の介護サービス選び”にある誤解【認知症介護のプロが解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

介護疲れ、老老介護、介護離職…高齢化社会において、介護問題の現状は深刻です。家族介護が限界を迎え、家庭崩壊や虐待を招きかねない中、適切な介護サービスを受けることは喫緊の課題です。それでは、どのような介護サービスを選ぶべきなのでしょうか? 認知症介護の第一人者である高浜将之氏(元:有限会社のがわ 代表取締役)が解説します。

どのような介護サービスを選ぶのか?まず知るべき2点

親が認知症などの場合、介護に家族が全面的に関わるのはイライラの原因にもなり、最悪の場合、家庭崩壊や虐待につながります。「親の介護はするとしても少しだけ。大部分はプロに任せる」のがお勧めです。なかには「他人の世話にはなりたくない」と仰る方もいますが、しっかりとした介護事業者であれば徐々に心を通わせ、受け入れるものです。そこで「どのような介護サービスを選ぶのか」が大きな問題となりますが、そもそも当事者が「どこで生活したいのか」、そして「どこで生活することが可能なのか」、この2つを知ることが重要です。

 

【①「どこで生活したいのか?」:親本人と定期的な話し合いを】

介護状態になってからは「どういう風に暮らしたいか」を伝えられない場合も多く、事前の話し合いが非常に重要です。そういった話題を拒否する方もいらっしゃいますが、それは子にとっても困ることです。やはり子には子の家庭や生活があり、「ここまではできるけれど、これ以上はできない」ということもあります。

 

ですので、親が元気なうちに「定期的」に話し合い、本人の望む生活を把握しておくことが大切です。可能であれば、居住地域にある介護サービスや、その充実度合いなどの情報収集をしているといいですね。そうすれば「この場所じゃ在宅では無理そうだよ」「このサービスを使えば在宅で暮らせるね」などと現実的な話もできます。

 

また、離れて暮らしていると、急に介護が必要になることもあり、「今日の夜、どうする?」などということが起こりかねません。急な介護にも対応できる相談窓口を決めておくことも大切です。

 

【②「どこで生活することが可能なのか」:希望通りにできない場合も…】

皆が皆、希望通りに生活できるかと言うと、そうとも言えないのが実情です。たとえば、認知症には「出歩く方」と「動かない方」がいますが、出歩く方はお一人で生活すると行方不明になることもあり、状況によっては在宅生活が困難です。

 

というのも、遠く離れた場所で暮らしていると、親が頻繁に家から出て、その都度警察から「保護しましたので迎えに来てください」と連絡が入るわけです。遠いとなかなか迎えにも行けませんし、時期や場所によっては凍死の危険性もあります。こういった場合、入所を考えざるを得なくなります。

 

もう1つは、介護する側の家庭が崩壊するケースです。お互い遠く離れた場所で暮らしているのであれば、入所することへの割り切りもしやすいですが、隣町などで親が暮らしていると踏ん切りもつきません。けれど、仕事中に警察などから頻繁に連絡が入り、迎えや探す必要も出てくれば、介護離職につながりかねません。経済的に厳しい場合には介護サービスだけではまかなえず、家族のサポートが必要となるため、家庭崩壊のリスクも高まります。こういった場合も、入所を選択肢に入れざるを得なくなります。

 

介護問題は各家庭により状況が異なるため複雑ですが、「本人が幸せであること」と、「自分や自分の家族の生活が守れること」、この2つはすごく大切で、どちらかを優先する状態は避けるべきだと思います。

 

ですので、入所を選択する場合はそのサービス内容を、在宅を選択する際はどのような形であれば地域で暮らすことが可能なのかをまず考えることが重要です。介護離職をしなくても済む方法はいくらでもあるので、「どういう形で介護を他の人に任せるか」がポイントです。

各介護サービスの特徴・メリット

介護サービスには、大きく入所型サービスと在宅サービスがあります。介護者目線からの定義では、施設(入所型)とは「それぞれのルールの中で生活する場所」で、食事・起床・消灯の時間は基本的に決まっています。要介護状態の方を受け入れている有料老人ホームであれば、いくら高級でも同様です。ただ金額が高い分、人も手厚いです。もっとも人が手厚いからいい介護をできるかというと、一概にそうとも言えませんが。

 

同じ入所型でもグループホームは在宅サービスに位置づけられ、「家」とされます。そのため玄関に施錠もせず、起床や就寝時間も決まっていないなど、入居者のペースで生活できる事業所もあります。また、オートロックで自由には出歩けないけれど、庭が素敵だったり室内での生活が充実している事業所もあり、運営方針によって環境・サービス内容がかなり異なるのが特徴です。施設とグループホームのメリットは24時間365日職員が常駐して介護を行うため「安心感が大きい」ことですね。

 

在宅は、各種の介護サービスを使いながら、今まで通り自宅で生活する仕組みです。デイサービスや訪問介護、ショートステイを組み合わせながら生活するのが主流ですが、小規模多機能型居宅サービスや定期巡回サービス等の包括サービスも在宅生活を支えるのに非常に有効です。

 

中でも小規模多機能型居宅サービスは、デイサービス・訪問介護・ショートステイを1つの事業所で提供することから非常に柔軟な体制となっています。通常、デイサービスや訪問介護はケアマネジャーが作った計画に基づいて職員を配置しているので急な変更(柔軟な対応)は難しいですが、小規模多機能であれば、「今日はデイサービスに行きたくない」と言うと訪問介護で家に来てくれたり、「今日は仕事で迎えに行けないから泊めてほしい」と言えば泊めてくれます。このように、とても良いサービスですが、人員不足で「泊まりサービス」が限定的であったり、「柔軟な対応」に消極的な事業所もあるので、サービス内容などの情報収集は大切です。

 

こうした各種サービスを組み合わせると、出歩く認知症の方でも、リスクはありますが在宅で暮らすことは十分可能です。選択肢が多い分、各自に合うサービスを使って「自分のペースで生活できる」のがメリットです。

介護サービスを選ぶ際の注意点

<施設入居の注意点:本人目線での「良い施設」を考える>

施設については、家族目線では「豪華で、すべて面倒をみてくれる有料老人ホームがいい」と考えがちですが、ここに誤解があります。費用の高い施設に入っても、本人が幸せかは一概には言えないんですよね。良い施設とは「その人に合っているところ」です。

 

たとえば今までご自分で仕事や家庭を切り盛りしてきた人にとっては、お客様のようにすべてのサービスを提供してくれる施設は、自分の「役割」を奪われていくことにもつながり、物足りなさを感じることもあります。やはり、ご本人の性格や生活歴から「何が合っているのか」を見るのが望ましいことであって、それは本人目線なんです。そこから、どのような施設がよいか、あるいはグループホームにするかを考えればよいと思います。

 

ただ、施設・グループホームに関わらず、認知症の方は新しい環境に慣れることがとても大変です。たとえば朝目覚めると、どうして自分がここにいるのかがわからず、不安・混乱が起こり、認知機能にダメージを受けてしまうんですね。こうした環境の変化によるリ・ロケーションダメージによって認知症が進むこともあります。3~6ヵ月程で環境に慣れ、落ち着くように思われますが、頻回に環境を変えるのは避けた方がいいですね。

 

それに認知症であっても、毎日同じ介助者と接していると、名前は覚えられなくても「あんちゃん、昨日もいたね」と、敵でないことが認識できます。そして、なんとなく知っている人がいると安心し、毎日過ごしているところが知っている部屋になり、気づくと「帰る、帰る」と言っている場所が事業所になっていることも多くあります。

 

なので、中長期的な目線で見れば、入所施設も選択肢にあってよいと思います。もっとも、人材確保ができていない施設はサービスもきちんと提供できないので、事前に地域包括支援センターや専門家などに定期的に相談することをお勧めします。

 

<在宅介護の注意点:経済格差>

一方、在宅の注意点は「経済格差」です。施設などでは富裕層と中間・低所得層の違いは、単純に選択肢の幅ですが、在宅ではこの格差が一気に広がります。富裕層は自費サービスに費用を掛けられるので、区分支給限度額を超えても問題ありません。対して中間・低所得層では限度額を超える分は本人・家族の負担となるので、在宅を選ぶ際のポイントは、「自分の生活を犠牲にせず、どこまでできるか」を把握することです。

 

なお、介護サービスを選ぶ際には、各事業所のサービス対応を見るのも重要です。たとえばデイサービスでは、利用者をテレビの前に座らせて職員は事務仕事をしている事業所もあれば、よく散歩に連れ出す事業所もあります。どういうサービスを受けるかで半年後の歩行機能や認知機能にも違いが出るので気を付ける必要があります。

 

在宅サービスを受けていても、自宅で亡くなられるケースもあれば、最後に入所するケースもありますが、どちらにせよ、本人の望みや自身の生活への影響を総合的に考えて検討することが重要です。そのためにも、事前に事業所の特徴を調べたり、地域包括支援センターとコンタクトを取って相談できる体制を作っておくことが大切です。介護される側と介護する側がお互いに納得できるような形で「家族の介護」に向き合っていただきたいですね。

 

 

高浜 将之

株式会社土屋 常務取締役 兼 VICE COO

 

大学卒業後、営業の仕事をしていたが、2001年9月11日の同時多発テロを期に退職。1年間のフリーター生活の後、社会的マイノリティーの方々の支援をしたいと考え、2002年より介護業界へ足を踏み入れる。大型施設で2年間勤めた後、認知症グループホームに転職。以後、認知症ケアの世界にどっぷり浸かっている。グループホームでは一般職員からホーム長、複数の事業所の統括責任者等を経験。また、認知症介護指導者として東京都の認知症研修等の講師や地域での認知症への啓発活動等も積極的に取り組んでいる。

 

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