同じ関東でも「最大18倍差」の衝撃…「まさに“居住地ガチャ”」。お金持ちでも越えられない、福祉サービスの「地域間格差」

同じ関東でも「最大18倍差」の衝撃…「まさに“居住地ガチャ”」。お金持ちでも越えられない、福祉サービスの「地域間格差」
(※写真はイメージです/PIXTA)

福祉現場の実態を研究・データ化している吉田政弘氏(土屋総研 所長)は、介護難民やヤングケアラーといった介護関連のあらゆる社会課題は、在宅ケアの制度が整っていれば解消できることであり、そのためにはまず重度訪問介護の認知度を高めていく必要があるといいます。重度訪問介護を例に、まさに「居住地ガチャ」ともいうべき「福祉サービスの地域間格差」について見ていきましょう。

「他人ごと」ではない、福祉サービスの地域間格差

「高齢」であれば「自分もいつかは…」とイメージしやすいですが、「障害」はなかなか「自分ごと」とは捉えられないものです。以前は私もそうでした。けれど、障害は他人ごとではありません。いつ誰が病気になったり、事故に遭ったりしてもおかしくない、ごく身近な問題です。

 

交通事故などで麻痺や半身不随になったり、突然難病にかかったりなども含め、その後の介護はすべて障害福祉サービスで準備されています。けれど、いざ障害を負うとどうなるか。今、日本で社会問題となっているのが、介護サービスの「地域間格差」です。国の制度でありながら、都市部では受けられるサービスが地方では受けられない。在宅で生活したいと願っても、住んでいる場所によっては施設や病院などで生活せざるを得ない。そういったことが日本各地で起きています。

 

これは、そもそもお金で解決できることではありません。いくらお金があっても、自分の住む地域にしっかりとした障害福祉サービスの制度や事業所がなければ、もし将来、自分や家族がなんらかの障害を負っても、安心して暮らせるという保証はされません。お金があるだけでは使えない、制度を知っていないと使えない。しかも制度が整っていないと使えない。誰もがなりうるにも関わらず、どの地域で障害を抱えるかで、その後の人生が大きく変わります。

 

この状況を流行りの言葉で言い表すなら、まさに「居住地ガチャ」です。そうした意味でも、障害者介護の問題は、他人ごとではなく、「あなた」のことと言っても過言ではありません。

重度訪問介護でさえ、利用者はわずか「9人に1人」

厚生労働省『平成28年生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査)結果の概要』によりますと、平成28年12月1日現在で、障害者手帳を所持している人は「約560万人」と推計されています。日本の総人口(約1億2,692万人)の約4.4%、23人に1人となります。

 

この中で、障害者総合支援法による福祉サービスを利用している人の割合は、65歳未満では「約79万人」(32.1%)、65歳以上では「約69万人」(19.8%)となっています。

 

また、そのうち重度の障害を持つ区分4~6では、65歳未満で「約22万人」(65歳未満利用者の27.9%)、65歳以上で「約11万人」(65歳以上利用者の16.7%)です。併せて「約33万人」(総人口の0.26%)となり、約380人に1人が障害支援区分4~6(重度訪問介護サービスの対象者)の認定を受けた上で、障害者総合支援法によるなんらかの障害福祉サービスを受けていることになります。

 

一方、私が所長を務める土屋総研で、障害福祉サービスの一つ、「重度訪問介護サービス」(在宅における長時間の1対1支援)のみにフォーカスし、重度訪問介護を利用している人の割合を調査*した結果、近似曲線で約3,300人に1人と推定されました(*全国の各都道府県のうち人口1位および2位の市町村で、かつ重度訪問介護について特定できるデータのある71都市を対象とした)。

 

つまり、この2つの結果から単純に推計すると、約9人(=3,300人÷380人)の障害支援区分4~6の障害をお持ちの方のうち、1人の方しか重度訪問介護を利用しておらず、残りの8人の方については、重度の障害を持っていても、重度訪問介護を利用して地域で生活するのではなく、ごく限られた支援のみを使いながら暮らしている状況が浮かび上がります。そしてそれは、地域により、大きな差のあることもわかってきました。

ニーズが高まる一方、肝心のサービス提供事業者は不足

土屋総研では2022年11月、重度訪問介護に係る関東1都6県(全316自治体)における「利用格差」を調査・分析しました。その結果、自治体間で最大18倍の利用格差があり、利用者がゼロという市町村が約3割(約90の市町村)にのぼることが明らかとなりました。当調査により、サービス提供事業者が一見、多いと思われる自治体でも、実際にサービスを提供している事業者数はそう多くないこともわかっています。

 

また、日本全国に目を広げると、利用格差は87倍(全国の自治体公表データ:各都道府県のうち人口1位および2位の、データのある71都市より)にも膨れ上がります。地方によっては、重度訪問介護サービスを一事業所のみでカバーしている場合もあり、サービス提供事業者不足が深刻な状況が明らかとなっています。

 

一方で、国際社会からは、さらなる在宅移行の準備が求められています。日本は2014年、国連の障害者権利条約に批准しましたが、2022年9月の国連による審査では、在宅移行に係る動きが、国連が求めるほどはできておらず、地域への移行を強く要請するという厳しい評価が下されました。

 

こうした外部環境を踏まえると、国内でもさらなる在宅移行が進められていく中で、現状のままでは人材不足・事業所不足などにより、とりわけ地方では険しい道のりというしかありません。

「サービス自体を知らない」から利用されない例も多発

では、「なぜ地域で大きな利用格差が出ているのか」ですが、これは人材不足・サービス提供事業者不足もさることながら、「重度訪問介護の認知度の低さ」によることが否めません。私自身、介護・福祉業界に携わるまでは、人工呼吸器を着けた状態で病院で目覚めた日には絶対に退院できないと思っていましたが、そのように、そもそもサービス自体を「知らない」方が多くいます。特に中途で障害を負った場合、当事者やご家族が制度を認識していないのはともかく、地方によっては自治体の職員ですら知らないことが往々にしてあります。

 

以前、重度訪問介護の利用実績がない自治体(障害福祉課)に、利用者の支給時間決定について相談しましたが、その際、職員から「他の自治体はどうしていますか?」と尋ねられ、当方が制度について説明したことが何度かあります。このように、制度の歴史も浅く、利用実績も多くはないことから障害福祉課の職員ですらサービスを理解していないこともよく見受けられます。また、これは自治体の財政的な問題とも深く絡んでくる問題です。重度訪問介護は、国が50%、都道府県と市区町村がそれぞれ25%を負担する仕組みのため、各自治体の財政状況も支給決定の判断材料にならざるを得ない現実があります。

 

さらに、ソーシャルワーカーやケアマネージャー等、医療・福祉関係者が制度を「知らない」ことも多くあります。たとえば、病院でドクターに難病や重い障害を負った方の在宅移行の話をすると、「こんな状態の方が退院できるのですか?」という反応も見られます。もちろん、ドクターが障害福祉サービスのメニューを知っている必要はないのですが、病院は早期退院が方針としてあるので、ソーシャルワーカーは早めの退院に向けて動きます。その際、重度訪問介護サービスについて知っている方なら事業所に相談しますが、知らないケースも多く、そうすると、自宅ではなくどこか別の施設に送り込むという動きになってしまいます。

 

また、介護を必要とする大抵の方にはケアマネージャーが付いていますが、彼らは介護保険サービスには詳しい反面、障害福祉サービスは管轄外なので、知らない方も多くいます。そうしたことから障害福祉サービスにつながりにくく、重度訪問介護の知名度の低さが制度の普及を妨げ、地域間格差をますます広げる要因となっています。

あらゆる「介護関連の社会課題」を解決するために

障害福祉サービスは、誰しもが利用する権利を有しているにもかかわらず、居住地によって「(十分に)使える」「(十分に)使えない」という不平等の中にあります。もし自分が使えない地域に住んでいたら「嫌」なものですよね。だからこそ、まずはサービスを「知る」ことが必要です。家族の手を借りず、ひとり在宅で暮らしていける制度があることを知りさえすれば、今は病院や施設にいる方も、在宅へ移行したいと望まれることも多いはずですし、関係各所が認識することによって制度の普及につながり、在宅移行が可能となります。

 

潜在的な需要は高いと思われますが、在宅移行の課題は、人材・事業所不足・制度の知名度の低さの他にもいろいろとあります。一つは重度訪問介護や医療的ケアの資格を取得できる「研修機関の不足」です。これにより、障害者介護の人材の増加につながらない問題があります。

 

また、「介護は家族がするもの」という日本の伝統的価値観も挙げられます。重度訪問介護は自治体管轄になっているため、良くも悪くも、その地域の「介護に対する考え方」が大きく反映されます。たとえば、「長男であるお前が家族の介護をしないなんてありえない」というような形ですね。自治体の財政面からも、「介護はできるだけご家族で」という体制もよくあります。これが、家族の介護疲れを引き起こしています。

 

一方で、年老いた親が障害のある子どものケアをする「老障介護」では、親亡き後を考え、施設を利用したくても、どこも満員で入れず、家族は不安を抱えて生活しています。

 

あらゆる介護における社会課題の出発点、すなわち家族の生活の侵害や親亡き後問題、介護難民問題、ヤングケアラー問題は、在宅でのケアの制度が整っていれば解消できることです。こうした社会課題を解決するためにも、介護業界に携わる者としては、まずは重度訪問介護の認知度を高めていく必要があると考えています。

 

また私自身、将来の自分のためにこの問題に取り組んでいる面もありますが、いつか自分や大切な人が障害・難病を有したときのためにも、障害者介護における問題は、自分ごととして捉えるべきテーマだと思います。「あなたもです!」という気持ちですね。

 

【参考】

厚生労働省『平成28年生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査)結果の概要』(https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/seikatsu_chousa_b_h28.pdf)

 

土屋総合研究所『重度訪問介護、1都6県の利用格差が最大18倍。』(https://tcy.co.jp/news/press20221109/)

 

 

吉田 政弘

株式会社土屋 土屋総研 所長

 

一橋大学経済学部卒業。大学卒業後は中小企業専門の政府系金融機関、経済産業省中小企業庁、経営コンサルタントを経て介護の世界へ。重度訪問介護の現場や管理者業務、マネジメント業務を経験し、教育研修事業(土屋ケアカレッジ)の統括責任者にも従事。株式会社土屋では専務取締役兼最高財務責任者に就任。介護事業者の経営、法制度や国会、役所の施策検討プロセス、組織のガバナンス構築等にノウハウを有する。

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