ビジネスマンがコンプラ違反をする理由
ビジネスチャンスを介護業界に発見して参加した経営者たち―2000年初頭ではC社、そしてMグループがこれに当たると思います―は、言うなれば「儲かるから」という理由で業界に参入したと見受けられます。
少子高齢化時代において、ほとんどの市場が右肩下がりで、マーケット自体がシュリンクしていく中で、この時代においてもなおかつマーケットが拡大しているのが介護業界であり、ビジネスに対する感度の高い人の参入は当然の事象でもあります。
ビジネスにおいて「儲かる」というのは非常に大切なことではありますが、問題なのは、経営の優先軸が「儲かる=善」になった場合です。一般的に、儲けたい理由として、より質の高い消費をしたいなどの「欲望」があるわけですが、彼らにとっては儲かる・儲からないというのが「欲望」の基準ではなく、「善悪」の基準となっている。儲かる=善、儲からない=悪という具合にです。
そうすると、通常は欲望と善悪の葛藤の中で、ルールに基づいて判断が行われ、欲望を制御してバランスをとるところが、儲かることが「善」になった途端、その葛藤自体がなくなってしまい、バランスを制御する原理が機能しなくなります。
すなわち、法令の観点から見て「アウト」でも、これをすれば儲かるという事があった場合、「アウトだからやめよう」とはならず、「アウトと言われても、こっちのほうが正しい」と、やすやすと法を超えていく。むしろ法は、「ルールだから守らなければいけないもの」ではなく、邪魔なものであり、破ってもごまかせばいい、ばれなければいいという発想になってしまいます。
確かに利益が出ると会社が潤い、会社が潤うと会社は安定し、会社が安定すると倒産せず、従業員の雇用が維持できます。企業経営においては、そうした面が確かにあるので、全て否定できる話ではないと思いますが、儲けることを優先順位のトップに上げている経営者は、それを邪魔するものは全て敵であり、障害物であるという捉え方をしてしまう。
これを私は、この業界で目の当たりにしてきましたが、C社やMグループの社長もそういうところが少なからずあったと思います。儲けることに憑りつかれているわけです。欲望を充足させるために稼ぐのではなく、稼ぐことそのものが正義であるという、まさにマルクスの言う「貨幣フェティシズム」がそこにあります。貨幣を従物崇拝し、貨幣そのものが目的になっているところに、ビジネスを動機とした経営者によるコンプラ違反が生み出されると考えます。
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