年間を通じて、資金不足を打ち消すために金融を調節
金融調節によって,日銀当座預金の総額の増減はどれほど抑えられたのでしょうか。図表1はそれをみるためのものです。図中,棒グラフは銀行券要因と財政等要因によって生じた資金過不足と金融調節を表し,折れ線グラフは金融調節によって生じた日銀当座預金の増減を表しています。
1990年のようすを表す左図をみると,日本銀行は資金余剰となった1月から5月と8月,10月,11月に資金を吸収し,資金不足となったその他の月に資金を供給していることがわかります。資金過不足を打ち消すように金融を調節した結果,日銀当座預金の総額の増減は±2.5兆円の幅に収まりました。2014年のようすを表す右図をみると,年を通じた資金不足を打ち消すように,日本銀行は金融を調節したことがわかります。
図表1 資金過不足と金融調節(1)
実需を超えて行われる市場への資金供給
図表2は,金融調節によって増減した日銀当座預金の額と法定準備預金額の増減を比べるためのものです。1990年のようすを表す左図をみると,年後半に増減が激しくなるものの,日銀当座預金は法定準備預金の増加に伴って増えたことがわかります(2)。2014年のようすを表す右図をみると,日銀当座預金は法定準備預金とほぼ無関係に増えたことがわかります。
1990年と2014年の金融調節は,調節の手段と狙いともに異なるようです。
図表2 実需を超える資金供給(暦年累積)(3)
註
(1)日本銀行,財政関連統計,財政資金収支,対民間収支,日本銀行,日銀当座預金の増減要因からデータを取得し作成。
(2) 法人企業統計から1990年の不動産業のデータをみると,金融機関借入金は横ばいであったが,その他の借入金は増えたことがわかる。その他の借入金の多くは系統金融機関から住宅金融専門会社を経由した資金だと思われる。バブル期の金融政策については香西他(2000)を,総量規制については資産価格変動のメカニズムとその経済効果に関する研究会(1993)を参照。長澤訳(2001,pp.382-385)も参照。
(3)日本銀行,日銀当座預金の増減要因からデータを取得し作成。
参考文献
・我孫子善一郎『我が国の国庫制度―対民収支編―』ファイナンス,18-31,2006年。
・大内聡『我が国の国庫制度について―入門編―』ファイナンス,42-62,2005年。
・鎌田修『我が国の国庫制度―補足編―』ファイナンス,22-29,2006年。
・香西泰・伊藤修・有岡律子『バブル期の金融政策とその反省』金融研究,217-260,2000年。
・資産価格変動のメカニズムとその経済効果に関する研究会『資産価格変動のメカニズムとその経済効果』フィナンシャル・レビュー,30, 1-75,1993年。
・下鶴毅『我が国の国庫制度―出納計理編―』ファイナンス,22-39,2005年。
・高野寿也『我が国の国庫制度―応用編―』ファイナンス,11-16,2006年。
・高野寿也『国庫キャッシュマネジメント改革』ファイナンス,9-15,2007年。
・日本銀行『決済システムレポート2012-2013』2013年。
・日本銀行企画室『「マネタリーベースと日本銀行の取引」統計について』2000年。
・日本銀行企画室『日本銀行の政策・業務とバランスシート』2004年。
・日本銀行財政収支研究会『新版財政収支のみかた―わが国の国庫制度と財政資金の動き―』ときわ総合サービス,1997年。
・渡部晶『わが国の通貨制度(幣制)の運用状況について』ファイナンス,18-31,2012年。
・Keynes, John Maynard著,小泉明・長澤惟恭訳『貨幣論Ⅰ 貨幣の純粋理論』ケインズ全集第5巻,東洋経済新報社,2001年。
・Keynes, John Maynard著,長澤惟恭訳『貨幣論Ⅱ 貨幣の応用理論』ケインズ全集第6巻,東洋経済新報社,2001年。