日銀当座預金の増減が激化すればコール市場は不安定に
図表1は銀行券要因と財政等要因によって日銀当座預金の総額が増減するようすを表しています。1990年には,5月から6月と11月から12月に日銀当座預金の総額は大幅に減りました。2014年には,おおよそ3か月のサイクルで増減を繰り返しました。日銀当座預金の総額が激しく増減するとき,コール市場の取引は不安定になります。
図表1 資金過不足(1)
日本銀行は,日銀当座預金の総額の増減をならすために,日銀当座預金を供給したり吸収したりしています。これを金融調節といいます。日銀当座預金の総額が減るときには,図表2の左図のように,国債などのモノを金融機関から一時買い入れて日銀当座預金を供給します。日銀当座預金の総額が増えるときには,図表2の右図のように,国債などのモノを金融機関へ一時売り渡して日銀当座預金を吸収します。
図表2 金融調節(2)
日銀による「金融調節」の手段と規模
日本銀行は,金融機関と何を売買して金融を調節しているのでしょうか。図表3はそれをみるためのものです。プラスの値は日本銀行が日銀当座預金を供給したことを,マイナスの値は日本銀行が日銀当座預金を吸収したことを表します。図中,折れ線グラフは金融調節の総額を,棒グラフは金融調節の主な手段を表します。
1990年のようすをみると,1月から5月まで日本銀行が資金を吸収したことがわかります。6月以降は供給と吸収を交互に繰り返し,12月には8兆円を供給しています。金融調節の主な手段は短国売現先です。短国売現先とは,後日買い戻すことを約束して,日本銀行が手持ちの短期国債を金融機関へ売り渡す取引です。日本銀行と金融機関の国債の売買は日銀当座預金で決済されますので,日本銀行が短期国債を売ると,買い戻すまでの期間,売却代金の分だけ日銀当座預金が減ります。
2014年のようすをみると,日本銀行は年を通じて資金を供給したことがわかります。金融調節の主な手段は短国買入と長国買入です。買入とは,日本銀行が金融機関から短期国債や長期国債を買い入れる取引です。日本銀行が国債を買うと,購入代金の分だけ日銀当座預金が増えます。買入は,買い入れた国債を売り戻さないことを前提にしていますので,供給された日銀当座預金は原則減りません。
図表3 資金過不足と金融調節(3)
註
(1) 日本銀行,財政関連統計,財政資金収支,対民間収支,日本銀行,日銀当座預金の増減要因からデータを取得し作成。セントラル短資,国内金融セミナー,6資金需給によれば,対民間収支と財政等要因の計数は完全には一致しない。
(2) 長澤訳(2001,p.235)に「公衆の手許にある流通中の現金と加盟銀行の準備資産との和は,中央銀行の総資産から自己資本および積立金を差し引き,また政府預金と,中央銀行に対する加盟銀行以外の預金者の預金をも差し引いたものに,等しいであろう。したがって大体をいえば,中央銀行が自己の総資産量を調節しうるならば,それは現金と銀行貨幣との流通量を調節することができるであろう」とある。長澤訳(2001,pp.241-243)も参照。
(3) 日本銀行,日銀当座預金の増減要因からデータを取得し作成。
参考文献
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・日本銀行企画室『日本銀行の政策・業務とバランスシート』2004年。
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・Keynes, John Maynard著,長澤惟恭訳『貨幣論Ⅱ 貨幣の応用理論』ケインズ全集第6巻,東洋経済新報社,2001年。