“外国人”の身柄拘束ばかり報道されるが…中国当局の「スパイ容疑」による身柄拘束に最も心中穏やかでないのは「中国本土の中国人」である事情

“外国人”の身柄拘束ばかり報道されるが…中国当局の「スパイ容疑」による身柄拘束に最も心中穏やかでないのは「中国本土の中国人」である事情
(※写真はイメージです/PIXTA)

2023年、中国当局によって「スパイ容疑」で身柄を拘束された日本人男性社員が、今年起訴されたのは記憶に新しいでしょう。報道される機会が多いため外国人の身柄拘束ばかりが注目されがちですが、実際には中国本土の中国人が最も多く中国当局によって拘束されているようです。本記事では、中国法に詳しい村尾龍雄氏の著書『中国ビジネスに関わる人のための「反スパイ法・スパイ罪」入門』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋・再編集して、中国で起きたスパイ容疑による身柄拘束の事例から、中国本土の状況について詳しく解説します。

中国周辺の台湾人や香港人も同様に心中穏やかならざる状況に

心中穏やかならざる状況になっているのは、中国周辺にいる台湾人や香港人も同様です。2019年にスパイ容疑で台湾人のビジネスマンが身柄を拘束され、その後服役しました。

 

拘束されたきっかけは、香港経由で広東省に出張して香港に戻る際に「香港頑張れ」と書かれたカードを持っていたことです。法律上、カードを所持しているだけでは訴追できないため、たまたま武装警察部隊の撮影データを所持していたことを口実にスパイ罪の疑いでの身柄拘束に切り替えたとみられています。

 

この方は2021年1月に懲役1年10カ月と2年の政治的権利剥奪の判決を受け、服役した後に台湾に戻りました(2023年10月2日共同通信より)。

 

また、香港でも似たような動きがあります。香港で民主活動をしており、その後英国やオーストラリアなどの海外へ逃れた活動家8人について、2023年に1人あたり100万香港ドル(約2000万円。便宜上、2024年7月1日現在の為替レートを参照し、1香港ドル≒20円とします。以下同じ)の懸賞金がかけられました。

 

この中には2014年の雨傘革命を主導した人物もいます。外国の政治家との面会やインタビュー、SNS投稿を通じ、中国からの香港分離を主張した疑いをかけられたためです。

 

ただ、8人の滞在している国々が香港当局に彼らの身柄を引き渡すことは考えられないため、帰国しない限り身柄を拘束されることはないと見られています(2023年7月3日付時事通信より)。

 

同じく香港の民主化運動で最も著名な活動家は、2019年に抗議集会への参加を扇動した罪などに問われて7カ月間服役しました。

 

ただ、謝罪状を書き、治安当局者とともに中国本土の深圳に渡り、IT大手企業で中国の業績を示すものを見学すればカナダ留学を認めると警察から提案を受けました。そこで、深圳に渡ることを決意し、その後無事にカナダに留学できることとなりました。

 

彼女は香港の情勢や身の安全などを考慮し、香港には戻らないと決意したそうです(2023年12月8日付AFP BB Newsより)。

 

「特別行政区」として中国の一部であることが法的に自明な香港やマカオはもちろん、台湾は西欧型民主主義を導入し、普通選挙を実施するなど、政治体制が中国内地とは全く異なるにもかかわらず、北京は台湾が「一つの中国」に含まれるとの考え方を崩していません。

 

したがって、北京は台湾人を当然に自国民(中国公民)とみなしているので、香港やマカオと同様に、台湾にも独自の大使館や総領事館が存在しません。そのため、台湾人が当局に身柄を拘束されても、大使館や総領事館がないために誰も接見に来ないのです。

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※本連載は、村尾龍雄氏の著書『中国ビジネスに関わる人のための「反スパイ法・スパイ罪」入門』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋・再編集したものです。

中国ビジネスに関わる人のための「反スパイ法・スパイ罪」入門

中国ビジネスに関わる人のための「反スパイ法・スパイ罪」入門

村尾 龍雄

幻冬舎

スパイ容疑から身を守る! 安心して中国でビジネスを行うために―― 拘束・逮捕のリスクを回避するための知識を網羅! 日本にとって最大の貿易相手国である中国には、仕事などで滞在している日本人が10万人以上いますが…

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